連載【3回】

Health and Productivity

profile

関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了、医学博士。マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬塾クリニック院長を経て現職。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会上級登録医・評議員、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本統合医療学会認定医・理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。日本人初の英国Faculty of Homeopathy専門医(MFHom)。2014年度アリゾナ大学統合医療プログラムAssociate Fellow修了。『国際ホメオパシー医学事典』『女性のためのホメオパシー』訳。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『がんという病と生きる 森田療法による不安からの回復』共著など多数。

抗炎症食

健康で仕事を続けていくためにも日々の生活で注意したいところが食事です。時間に追われコンビニ弁当やインスタント食品、デパ地下の総菜ですませていませんか。その一方で食に関する情報や流行にふるまわされ、何を食べたら身体にいいのかと悩んでいませんか。

簡単にできる“抗炎症食”を知って、少しずつ食生活をかえていきましょう。

The Secret Killer である“炎症”

動脈硬化や高血圧、認知症、うつ病、糖尿病、アレルギー性疾患、がんなどさまざまな病気を引き起こす要因として問題になっているのが慢性炎症です。炎症には急性炎症と慢性炎症がありますが、本来炎症は細菌やウイルス、紫外線など外的侵襲だけでなくあらゆるストレスに対する身体のもつ最も基本的な生体防御反応です。慢性炎症は身体が日常受けているストレスに対して反応した結果、くすぶるような形で徐々に時間をかけて形成され、そして身体の種々の器官を障害しさまざまな病気へと静かに進めていくのです。

2004年の米国のタイムズ紙では“The Secret Killer”と称して炎症がとりあげられ、日本でもやっと慢性炎症が注目されるようになっています。

“抗炎症食”とは

統合医療の先駆者であるアリゾナ大学のアンドリュー・ワイル医師は”anti-inflammatory diet:抗炎症食”を提唱しています。(図1)

図1 Feb.23,2004

ただ炎症を抑制するだけではなく、心身に安定したエネルギー供給としてのビタミン、ミネラル、必須脂肪酸、食物繊維や植物性栄養素を供給するためのダイエットです。(図2)

図2

その主要な食材には、全粒穀物など消化に時間のかかる炭水化物、抗炎症作用のあるオメガ3脂肪酸の摂取源であるイワシ、アジ、サバなどの青身魚、動物性タンパク質よりも毒性が少なく良質な脂質を含む植物性タンパク質(豆類、大豆発酵食品)、ゴマなどの種子類やナッツ類、いろどり豊かな新鮮な野菜と果物からなっています。

いろどり豊かな野菜や果物には抗炎症作用であるフィトケミカル(植物化学物質)を含んでいます。例えば赤・黄・オレンジなど色とりどりのカロテノイドやポリフェノールです。その代表的なのは、ニンジンのオレンジとなるβカロテンやトマトの赤を作るリコピン、ホウレンソウの緑のもととなるルテインなどです。(図3)

図3

また油でとる必須脂肪酸は炎症を促進させるオメガ6脂肪酸(大豆油やサラダ油、コーン油、ベニバナ油、マーガリンなどの植物油)を減らし、抗炎症作用のオメガ3脂肪酸(エゴマ油やアマニ油に含まれるαリノレン酸;加熱で失われるので)を生で摂取する、例えば野菜に手作りドレッシングとしてとってみましょう。

ワイル医師の提唱する抗炎症食は全粒穀物やナッツなど米の食生活に則したものとなっていますが、これを日本食に対応して取り入れることも簡単にできます。

簡単な和製“抗炎症食”

日本食は2013年にユネスコの無形文化財となりました。(図4)

図4

日本食の特徴である多様な新鮮な食材、バランスがよく簡単な食生活は抗炎症食の土台といえます。抗炎症食での全粒穀物としては白米よりも玄米がベストかもしれませんが、まず炭水化物のとりすぎを考え直すことから始めてください。簡単にはMyPlateという考え方があります。(図5)

図5

米国農務省が 2011年6月にうち出しているMy Plateはそれまでのピラミッド式の食事とはちがって非常にシンプルです。1枚のお皿を4分割して考え、野菜、果物、穀物、タンパク質の4つを食事に取り入れる簡単な方法ですぐに実行できます。穀物は白米を、和食の特色である季節の野菜を使って、大地からの栄養を含む根野菜、太陽からのエネルギーを考え葉野菜、海の幸の海藻、動物性タンパク質、豆や発酵食品などいろどり豊かなMyPlateになります。

いろどり豊かなMy Plate、油のとり方を日本食に対応させることで和製抗炎症食となるのではないでしょうか。何をとろうと難しく考えることより感覚的な色で食を考えてみるのもいいと思います。またできることなら日々の生活において食品に関心を持つことです。炎症を促進するような食品の摂取量をへらすようにしてください。加工されすぎた食品や消化が速い炭水化物、ファストフード、「一部水素化」と記された油脂を使った食品、植物性マーガリンを含む植物性のショートニングの摂取を避けることもできます。抗炎症色と取り入れることによって自分の身体を大切にし、より健康な状態で働くことができるのではないでしょうか。

(Up&Coming '18 秋の号掲載)