Vol.11 

ハンブルグ:ハーフェンシティ開発
 大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

  はじめに    福田知弘氏による「建築と都市のブログ」の好評連載の第11回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回はハンブルグの3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞ、お楽しみください。

ランドギャングツアーへ

ハンブルグは、首都ベルリンに次ぐドイツ第二の都市。人口は180万人を超える。全長1,091kmの国際河川エルベ川河口に位置し、古くから港湾都市として栄えた。90を超える領事館はニューヨークに次ぐ多さ。市の中心部に風光明媚なアルスター湖があり、エルベ川とは数多くの運河で結ばれている【図1】。そのため、市内には2,300以上もの橋が架けられている。実は、水の都で有名なベニスとアムステルダムを合わせた数よりも多い。浪華の八百八橋・大阪市とは姉妹都市。

ICE(Intercity-Express)でハンブルグ中央駅に入る【図2】。ヨーロッパのターミナル駅に見られる大きなアーチ屋根。「ああ、都市に着いた」と感じさせる。それは物凄く大きく、他の駅とは明らかに格が違う。首が痛くなっても見続けておきたいと思わせる吸い込まれるような空間。

【図1】市庁舎前を流れる運河と水門
【図2】ハンブルグ中央駅

ハーフェンシティ開発

ハーフェンシティ地区は、ハンブルク市街を流れるエルベ川沿いに位置する。かつては自由港として栄えた。その後、コンテナ船の登場による海上貨物輸送の大変革に伴い、1960年代には貨物保管庫としての機能のみを担うようになり、閑散とした低未利用地となっていた。このエリアを市街地に再生させるべく、1997年にハーフェンシティ開発が市議会で承認されたことを受け、(株)ハーフェンシティ・ハンブルクが市役所出資により設立された。

マスタープランは2000年に完成。開発面積157ha、東西3.3km、南北1kmに及ぶ。その中に、5,500戸の集合住宅(居住者12,000人)、40,000人以上の雇用を生む業務施設、商業施設、文教施設、コンサートホールなどが計画されている。ヨーロッパ最大規模の都市再生プロジェクトたる所以である。

ハーフェンシティ・インフォセンター

ハーフェンシティ・インフォセンターは、計画内容を市民、投資家、政治家、建築家などに情報公開するため、ハーフェンシティ開発に先立って整備された【図3】。かつての発電所をリノベーションした建築。この地区は既に、古いレンガ倉庫群をリノベーションして、ハンブルクの観光名所の一つとなっている。インフォセンターには、1日平均300~500人の来場者があるそうだが、訪問日は何と2時間で400人。

センターに入り、入り口・受け付けの部屋から暗いトンネルをくぐると、8m×4mの巨大な1/500縮尺模型が目に飛び込んできた【図4】。実寸で4km×2kmを表現していることになる。この模型を見れば、プロジェクト全体が俯瞰できる。ハーフェンシティで計画中の建築及び旧市内のランドマーク建築(市庁舎、教会)が茶色で、その他は白色で表現されている。この模型は新しい計画が立ち上がる度に更新され、生き物のような都市の最新を窺い知ることができる。模型の周囲には、写真、映像、詳細なドローイングも設置されている【図5】。模型の脇に併設されているカフェは常に満席。

【図3】インフォセンター全景
【図4】インフォセンター内観全景 【図5】インフォセンター内の展示

【図6】ランドギャングツアーの概要説明

ハーフェンシティ・ランドギャングツアー

ハーフェンシティのツアーは定期的に3種類実施されており、ランドギャングツアー(年中土曜15:00~17:00)、アフターワークガイドツアー(5~9月の火曜18:30~)、自転車ガイドツアー(5~9月の第1・3日曜11:00~13:00)。その他にも団体用ツアーなども随時実施されている。

筆者らが参加したのはランドギャングツアー。先述のインフォセンター模型前に集合【図6】。まず、ガイドの女性が緑色のレーザーポインターを使いながらドイツ語で計画を概要説明。この日は参加者25名。日本人は我々だけで殆どがドイツ人。後で聞くと、ツアー参加者はハンブルグ市民が50%、それ以外が50%とのこと。

インフォセンターを出て、いよいよハーフェンシティ地区へ【図7】。Traditional Ship Harborは、水面にはデッキが浮かべられ、右手にはキャンティレバー構造により水辺に大きく張り出した建築群【図8】。建物の全ての住居から水面が見えるように設計されている。地上階は遊歩道として公共空間化されている。突端には、ヘルツォーク&ド・ムーロンによるコンサートホール「Elbphilharmonie」の姿。

 
【図7】Traditional Ship Harbor 【図8】水際の建築群

ツアーガイドはA3版の資料を併用しながら、過去の写真や未来のCGを紹介。【図9】は、同じ位置から撮影した過去と現在。

【図9】開発前後

一つ南側の水路、Vasco Da Gama Plaza付近【図10】。こちらも将来、水辺にはMarinaとして浮き桟橋が整備されるそう。向かいはMarco Polo Terraces地区。Marco Polo Towerと呼ばれる高層ビルには高級住宅が入る。隣のビルは事務所とショッピングセンター。ツアーはMarco Polo Terraces地区を抜けエルベ川の水際で終了。ちょうど大型客船が寄港していた。

最後に展望台へ。西側を見れば、MarinaやElbphilharmonieが見える【図11】。東側の開発は今後。現地ツアーでは、地区毎の開発段階の違いや建設現場の活気を五感で理解することができた。

 
【図10】Vasco Da Gama Plaza付近 【図11】展望台から西側を眺望

おわりに

ハーフェンシティ開発は、市民はじめ関係者に対するコミュニケーションを重要な柱と捉えている。そのため、単なるパネル展示でなく、巨大模型を制作したり、開発中の現場を案内するツアーを実施している。

大阪においても、開発中の大阪駅を設計者自らが案内するツアーが継続的に企画されており、高い人気を誇ってきた(主催:もうひとつの旅クラブ、大阪旅めがね)。市民にとって、開発中の現場とは良く判らない場所である。そのため、完成が楽しみでもあり、興味深々でもあり、不安でもあるに違いない。また人々は、必要以上に隠されると余計に気になるし、疑心暗鬼が募ってくるものだ。全うな情報を伝える方法はいくつかあるが、実物を見せることは非常に訴求力の高い行為であるといえるのではないだろうか。




3Dデジタルシティ・ハンブルグ by UC-win/Road
「ハンブルグ」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
UC-win/Roadによる3次元VR(バーチャル・リアリティ)モデルを作成したものです。中世以来、港湾都市として栄え、市の中心部のアルスター湖とエルベ川を結ぶ数多くの運河に2032もの橋がかかる“水の都”ハンブルグの景観を表現しました。ドイツルネサンス様式で建てられた市庁舎、大きなアーチ屋根を持つハンブルグ中央駅など歴史を感じさせる建物とともに、水辺に建設中のコンサートホール、商業施設等の建築群が立ち並び、ヨーロッパ最大規模の都市再生プロジェクトとして開発の進むハーフェンシティ地区と、開発計画を情報公開するためのハーフェンシティ・インフォセンターもモデル化しています。市民、関係者とのコミュニケーションを重視し、活気ある地域開発を進めるハンブルクの最新の都市風景を表現しています。

 
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(Up&Coming '11 新緑の号掲載)
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