はじめに    福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第27回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回は南信の3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞ、お楽しみください。
Vol.27 

南信:ジビエ料理
 大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

南信へ

大阪の新たな風物詩・北浜テラスは、北浜地域のテナントや建物オーナー、NPO、住民等からなる北浜水辺協議会が運営している。この、北浜テラスに企画時点から関わってこられた「そば切りてる坊」さんが、長野県駒ケ根市を終の棲家と定め、2011年に移転された。そんな背景もあって、「もうひとつの旅2014」は南信に決定。2014年4月に訪問した【図1】。

長野県は、北海道、岩手、福島に次いで日本で4番目に広い都道府県であり、日本一多くの都道府県と接する県(新潟、富山、岐阜、愛知、静岡、山梨、埼玉、群馬)。有名な県歌「信濃の国」に、♪松本・伊那・佐久・善光寺~とあるように四つの盆地に分かれ、それぞれが異なる文化を形成している。そのため、長野県は中信(松本)・南信(伊那)・東信(佐久)・北信(善光寺)と分けて扱われることもあるそうだ。

今回は、南信に行くことになる。南信は、筆者にとってこれまで、妻籠や馬篭を訪れた程度であり、主に北信や中信に行く際の通過地域であった。1泊2日とはいえ、南信に宿泊するのは今回が初めてとなる。

【図1】てる坊にて

桃源郷

西を見れば中央アルプス、東を見れば南アルプス。日本の背骨に挟まれた伊那盆地にあるてる坊さんに着くや否や、早速お蕎麦をいただく。てる坊とは、店の名でありご主人のことでもある。ご主人は、そばの実や粉の入った試験管を持ってきて、丁寧に説明してくれた。2種類の蕎麦、「丸ぬき」と「玄びき」を食べくらべ【図2】。夕食は、馬鹿鍋(馬と鹿のすき焼き鍋)をいただいた。馬はしゃぶしゃぶ風にさっと、鹿はじっくり煮込んで【図3】。贅沢な時間である。

てる坊さんの紹介で、伊那里・自給楽園の小林さんを訪問。おとぎ話に出てきそうなリンゴや洋ナシの果樹園を抜けて事務所へ。既に、まちづくりイベント・信州伊那里泊覧会「イーラ」を開催してこられ、自立を目指した活動を続けておられる。刺激を受けたのは言うまでもない。

それにしてもハナモモ、ソメイヨシノ、シダレ桜、八重桜、水仙、レンギョウなど、色とりどりの花が一斉に咲く贅沢な季節に訪問したものだ。夕方に訪れた名刹・光前寺は約70本のシダレ桜が満開。見事。色も多彩で、正に桃源郷のようだ。


【図2】蕎麦

【図3】馬鹿鍋(上:鹿、下:馬)

大鹿村



【図4】ハナモモと中央アルプス

翌日は、駒ケ根から秋葉街道(国道152号線)に入り南下して、農村歌舞伎の残る大鹿村、そして天空の里遠山郷へ向かう。駒ケ根から秋葉街道へ向かう道中に出合った個人宅の庭も桃源郷【図4】。特に、ハナモモの濃い赤色が珍しい。伊那山地と南アルプスに挟まれた秋葉街道は、中央構造線とほぼ一致している。中央構造線は、関東から九州へ日本列島を東西に縦断する大断層。大鹿村の北側の入口・分杭峠を過ぎると北川露頭があり、構造線の様子をじかに観察できる。【図5】の右側は南アルプス・外帯、左側は伊那山脈・内帯。でき方が明らかに違う岩石が並ぶ。


【図5】中央構造線
【図6】大鹿歌舞伎の舞台・市場神社

いよいよ「日本で最も美しい村」連合に所属する大鹿村の中心部へ。高齢化率(65歳以上人口が総人口に占める割合)は50%を超え、過疎も進むが、知名度は高い。それは、春秋に行われる大鹿歌舞伎【図6】と中央構造線があるからだろうか。村の中心部を流れる小渋川沿いにある大西公園では大鹿さくら祭りが丁度行われていた【図7】。130種・3000本の見事な桜が面的に植わる。実は、1961年6月豪雨(三六災害)により、背後の大西山の斜面が高さ450m、幅500m、厚さ15mに渡って崩壊、山津波となって小渋川対岸の集落を襲った。濁流により、約30万㎡の宅地や田畑が消失し、家屋40戸が流され、42名の命が奪われた。災害発生後50年経った今も治山復旧工事が進められている。大西公園は崩壊した山麓の土砂の上に、犠牲者の慰霊と村の復興を願って築かれた【図8】。天気の良い日には赤石岳が望めるそうだ。

【図7】大西公園


【図8】大西山の崩落現場と大西公園

昼食へ。車は険しい山道を駆け上っていき、するぎ農園に着いた。標高1000mにある山の食堂で、鹿肉のジビエ料理をいただく。大鹿村は人の数より鹿の数の方が多いといわれ、鹿、猪、猿などによる獣害が深刻。ジビエ料理はこのような状況を逆手にとり、鹿、猪など野生鳥獣肉を素材にしたジビエ料理を「大鹿ジビエ」として地域ブランドに確立させていこうと取り組んでいる【図9】。


【図9】大鹿ジビエ

下栗の里

赤石荘で大鹿村を眺めながら露天風呂に浸かった後、いよいよ下栗の里のある遠山郷へ向かう。引き続き、秋葉街道を南下していくのだが、なんと大鹿村の南側の入口・地蔵峠で国道が途切れている!地図上では確かに対岸の国道とつながっているように点線で描かれているが、実際は脇の林道をうねうねと迂回していくことになる。国道152号線の不通区間はさらにもう一か所、青崩峠にもあるそうだ。

下栗の里に着いた。標高800~1000m、南アルプスに連なる尾根筋に拓かれた集落。かなりの急斜面で、S字カーブの細道に沿って、家々と畑がへばり付く独特の風景。日本のチロルと名付けられているが、谷まで続く段々畑はマチュピチュのようでもある。にほんの里100選の一つ。

住民の方々で作られた天空の里ビューポイントへ。森の中を20分ほど歩いていくと突然テラスが現れ【図10】、下栗の里が良い角度で俯瞰できる【図11】。絶景。名産品の下栗イモのじゃがバターをいただく。容姿は小ぶりなジャガイモであるが、交配していない古い種といわれる。ジャガイモの原産地は確か南米アンデス山脈だから、やはりここはマチュピチュなのでは(笑)?

【図10】天空の里ビューポイント 【図11】下栗の里俯瞰

ARで山座同定

現地を歩いていると、そこから見えている山が果たして何という名前なのか知りたくなる。富士山のように特徴的な山であれば調べなくとも見たらわかるのだが、普通の山や土地勘のない地域で出合う山はさすがに知らない。そこで、古くから方位磁石と地図を使って山の名称を割り出すことが行われてきた。山座同定という。

近年では3Dデジタル技術を使った山座同定が行われるようになった。有名なアプリは、カシミール3Dである。このアプリは、GPSまたは地図で眺める地点の緯度経度を特定してぐるりと見渡す。アプリには国土地理院の国土数値情報や山の名称がデータベースとして入力されているため、CGで描かれた山の上方に山の名称が表示される。こうして山座同定が可能となる。

今回はARで山座同定できるアプリ、AR山1000を使ってみた。「AR山1000」の内部処理を詳しく知ることはできないが、恐らく次のような仕組ではないだろうか。

スマートフォンのGPS(もしくはWiFi)でユーザの位置情報を取得する。センサー(電子コンパス、ジャイロセンサー、加速度センサー)でユーザの姿勢情報を取得する。カメラ機能で今眺めている風景のライブ動画を取得する。現在の位置情報と姿勢情報を媒介として、ある一定の距離にある山の名称をスマートフォンのディスプレイ上にリアルタイム描画することで、山座同定を可能とする。【図12】はてる坊さんから南アルプスを眺めた時の様子。現在はGPSやセンサーの性能の限界により、位置情報、姿勢情報とも多少ずれることはあるものの、実用性の高いアプリである。是非、お試しを。

【図12】AR 山1000

リニア

南信は近い将来、大きく変わることが期待される地域。その理由は何といってもリニア中央新幹線計画。現在、飯田市にリニア・長野県駅(仮称)が設置される計画が進められており、実現すれば飯田-名古屋間は27分(現在は高速バスで2時間、特急+新幹線で3時間15分)、飯田-品川間は45分(同高速バス+山手線で4時間40分、特急+新幹線で4時間強)となり、現在の所要時間と比較すると劇的に短くなる。東京圏、中京圏からは十分に日帰り圏内となり、場合によっては通勤も可能であろう。道路面では、南信と浜松方面を結ぶ高速道路・三遠南信自動車道の整備が進められており、南信と太平洋方面との結びつきがより強くなりそうだ。

南信は、現在たっぷりと残されている自然・田舎と、都会へアクセスしやすい便利な街とがうまく共生しながら未来を迎えてほしいと願う。

【参考文献】
  1. 北浜テラス http://www.osakakawayuka.com/
  2. カシミール3D http://www.kashmir3d.com/
  3. ARYama1000 https://itunes.apple.com/jp/app/ar-shan-1000/id416384573


3Dデジタルシティ・南信 by UC-win/Road
「南信」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
今回は飯田市上村にある標高800~1000mの急斜面にある下栗の里と、南信の四季のある風景を作成しました。駒ヶ岳ロープウェイからの眺めや、紅葉する千畳敷カールの美しい景観、天竜川に架かる橋やライン下りをする観光客の様子を、VRで表現しました。また、中央新幹線計画のある飯田市では時速500kmで走るリニアを体感することができます。
急斜面にある小さな集落 下栗の里 駒ヶ岳ロープウェイ
千畳敷カール リニア中央新幹線計画ルート


CGレンダリングサービス

「UC-win/Road CGレンダリングサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細なCG画像ファイルを提供するもので、今回の3Dデジタルシティ・南信のレンダリングにも使用されています。POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。また、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。


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(Up&Coming '14 秋の号掲載)
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