はじめに    福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第38回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回は蘇州の3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞお楽しみください。
Vol.38 

蘇州:不易流行
  大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

蘇州へ

2017年4月、CAADRIA2017に参加した。査読付き論文の通過率は、応募者全員が最初に投稿するAbstractの総数から換算すると30%台であり、査読を通過するのは結構難しい。言い換えれば、CAADに関する質の髙い研究論文が集まっており、近年ではトムソン・ロイターの科学部門であるトムソン・サイエンティフィックが提供するWeb of Scienceやエルゼビア社のScopusなどの学術データベースに登録されるようになった。22回目を迎えた2017年は、中国蘇州・西安交通—リバプール大学(西交利物浦大学)で開催された【図1,2】。


【図1】CAADRIA2017 集合写真

蘇州は、約20年ぶりの訪問。歴史都市でありながら、この20年間の中国の発展を想えば、変わってしまったものも多いのだろう。上海・浦東国際空港から直行バスが出ているが、今回は電車でアクセスしてみた。浦東空港からリニアで上海市内に入り、地下鉄を乗り継いで、上海駅へ。ここから中国の新幹線「和階号」に乗る。乗り物に乗ろうとする度に、荷物検査があるのが少々しんどいがセキュリティ上やむを得ないのか。上海駅構内は、大きなエスカレーターを上がり、プラットフォームに辿り着く直前に待合所があり、乗り込む列車が到着する少し前に、改札が行われて、プラットフォームに降りていく【図3,4】。

和階号に乗ると、なぜか我が指定席には先客が…どうやら親子連れの席が離れてしまったらしく、「悪いけど席変わってくれませんか?」と中国語で。こんな体験を経て30分ほどで蘇州に着いた。



【図2】CAADRIA2017 カンファレンスディナー

【図3】上海駅 切符売り場 【図4】上海駅 和階号入線

四大庭園

蘇州の歴史は、紀元前514年、呉王闔閭(こうりょ)が、周囲25kmの城壁を築いたことに始まる。町は、外城河と呼ばれる運河に囲まれ、至るところに細い運河が網の目のように走っており、小舟が行き交う。このような風景、さらには水運が生活に溶け込んでいることから「東洋のベニス」と称えられてきた。

観光のハイライトは、庭園巡り。滄浪亭(宋代:948~1264年)、獅子林(元代:1271~1368年)、拙政園(明代:1369~1644年)、留園(清代:1644~1911年)は蘇州四大庭園といわれる。このうち、留園と拙政園は中国四大庭園にも数えられる。今回は、獅子林と拙政園を訪ねることができた。

獅子林は、太湖石と呼ばれる、太湖から引き上げられた穴が沢山空いている白い石が主役。園内は回遊式であり、太湖石と古い建物が見事に調和している【図5,6】。はぐれた仲間のところまで辿り着こうとしても、通路が迷路のようになっており、顔は確かに見えているのだが、仲間の居場所まで中々辿り着けなかった。

【図5,6】獅子林

拙政園は、5haとかなり広く、中国四大庭園の中でも最大。東園、中園、西園に分かれる。敷地の半分以上は池や堀などの水面である。お気に入りの風景は、水面と樹木の間に、九層の北寺塔を取り込んだ視点場【図7】。これは、「借景」といわれる設計技法であり、庭の外にある北寺塔を拙政園の景色の一部としたものである。

拙政園の隣には、リニューアルされた蘇州博物館がある。蘇州に縁の深い建築家、I.M.ペイが設計。CAADRIA2017最終日のエクスカーションで訪問。みんな論文発表や学会の仕事が終わり、帰国するまでのリラックスした時間を共有しながら【図8】。



【図7】拙政園 北寺塔借景

出口付近には、蘇州博物館の旧館があり、樹齢290年の立派なシダレエンジュ【図9】。当時、境港市水木しげるロードリニューアルプロジェクトに関わっており、シダレエンジュの樹形は妖怪のまちに相応しいということで水木しげるロードの新たな街路樹に採用されようとしていた頃であった。正に、シダレエンジュつながりである。

【図8】蘇州博物館 新館 【図9】樹齢290歳のシダレエンジュ

平江路

平江路は、運河と平行した1.6kmの遊歩道。中国での再開発では古いものを壊して全く新しいものを建設することが多いが、この地区は昔ながらの街並みを残しつつ、一階には、カフェ、レストラン、雑貨屋、土産物屋がリノベーションにより連坦しており、心地よい雰囲気を醸し出している【図10】。ちょっと脇の路地に入り込むのも楽しい【図11】。

2009年、平江路は中国歴史文化名街に指定された。中国歴史文化名街は、中国全土を対象として、

  1. 歴史的に重要な影響を与えたり、重要な歴史的事件が起きたりした場所であること
  2. 文化的特徴も豊かで、現在まで伝承されていること
  3. 文物や旧跡、歴史的遺構が残されており、一定の規模で伝統的な町並や歴史的景観が良好に保存されていること
  4. 当該街区が繁栄した当時の社会的機能や経済・文化面での活力を維持していること

などを選定規準として、北京市の国子監街、山西省平遥県の南大街、黒竜江省ハルビン市の中央大街、蘇州市の平江路、安徽省黄山市の屯渓老街、福建省福州市の三坊七巷、山東省青島市の八大関、山東省青州市の昭徳古街、海南省海口市の騎楼老街、チベット自治区ラサ市の八廓街の10街区が選ばれた。

CAADRIA2017の会場となった、西安交通—リバプール大学は、蘇州中心部から13kmほど離れた、蘇州工業園区にある。正式には、中国-シンガポール蘇州工業園区と呼ばれ、1994年、蘇州市政府とシンガポール政府関係企業との合弁で開発が始まった。ここは20年前には街はほぼなかった。朝夕は、市内と郊外と行き交う自動車の渋滞解消が課題であろう。

【図10】平江路 【図11】路地

表飞鸣

卑近な話で恐縮だが、中国出張に出発する直前まで、我が家は胃腸風邪を次々に罹っていた。これが中々しつこいウィルスで、誰かが治ると次に別の誰かが罹るといった、うつしあいっこ状態。幸か不幸か、私にウィルスは飛んで来ていないように思われたのだが、中国に着いて間もなく、残念ながら症状が現れた。

正露丸は日本から持ってきていたが、どうやらビオフェルミンの方がいいらしい。が、持ってきていない。夕食時、松鼠桂魚などの蘇州名物が食卓に運ばれてきても、箸が余り進まず、お酒も進んでいなかった。そんな状況を不思議がった台湾の友人に事情を話して聞いてみたら、ビオフェルミンは中国にもあるそうで、中国語で「表飞鸣」と書くことを教えてもらった。

そこで、ビオフェルミンのサイトをスクショして、ホテル近くの薬局へ。薬剤師さんと、翻訳アプリと筆談で日本語(または英語)⇔中国語のやり取りをしばし行いつつ、「わかったわ!これが必要なのね!」とやがて持ってきてくれたのは、正露丸…「いや、それは持ってるんです」と現物を見せると、「あらそうなの…」と大層残念がられた。

次いでに、正露丸は、我が町、吹田で作っているのですよと雑談したかったのだが、まだビオフェルミンをゲットできていなかったたため自重した。結局、ビオフェルミンを手に入れることはできず、自然治癒に頼るしかなくなったが、真摯に対応してくれた薬剤師さんとのやり取りの御蔭で、気分的にはリラックスできたようである。それにしても、中国のトイレは、公衆トイレ含めて、だいぶん綺麗になった。これは助かった!

外灘

蘇州から上海を経て帰国。Booking.comで外灘近くの宿をとったため、外灘の夜景と朝景の両方を眺めることができた【図12】。夜は、和平飯店のオールド ジャズバンドを久しぶりに訪問【図13】。オールドジャズマンたちの平均年齢は75歳らしいが、最近は96歳のジャズマンが復活されたそう。翌日の目覚まし時計は、旧江海関(上海税関)の鐘の音「東方紅」であった。

次回の訪問では、何が変わり、何が変わっていないか、それはそれで楽しみである。


【図12】外灘夜景

【図13】オールド ジャズバンド


3Dデジタルシティ・蘇州 by UC-win/Road
「蘇州」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
今回は、蘇州の中でも昔の街並みが残る七里山塘街を作成しました。運河の両側に家屋がひしめきあっている特徴的な風景を表現しています。道を歩けば、軒先に吊るされた多数の提灯やお面など、情緒あふれる街並みに触れ合うことができます。夜の時間帯に切り替えると、提灯の灯りに橋のライトアップが加わった非常に幻想的な風景が現れます。また、運河の先には斜塔として有名な虎丘の雲岩寺塔を望むことができます。
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山塘河、新民橋の夜 山塘勝蹟牌楼
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蘇州博物館 朝宗閣


CGレンダリングサービス

「UC-win/Road CGサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細なCG画像ファイルを提供するもので、今回の3Dデジタルシティ・蘇州のレンダリングにも使用されています。POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。また、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。

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(Up&Coming '17 盛夏号掲載)
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