「2021年新作映画ベスト5!+2021年映画の特徴」

今年も変わらず映画館に通い続け、年間100本の鑑賞を達成しました!(2021年11月末時点)。今回は、2021年の新作映画ベスト5に加えて、2021年映画の特徴について語っていきます!

2021年映画ベスト5

5位「ジャッリカットゥ 牛の怒り」

南インドのジャングルにある農村を舞台にした、牛が主人公の異色パニックムービー。貴重な食料源である水牛が脱走したことで、1000人の村人が1匹の牛を追いかける展開ですが、これほど熱量と迫力を合わせ持った映画はありません。牛を失ったことで狂人化する1000人の村人の怒号、それに呼応するかの様にけたたましく流れる効果音、ダイナミックなカメラワーク。ただ牛を追うだけの物語であるはずが、まるで1トンのダイヤモンドを追いかけるトレジャーハンターのように思えます。インド映画の奥深さを感じてください。

「ジャッリカットゥ 牛の怒り」
 インド映画 上映時間:91分

監督:リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ
見所:主演が牛!? 一匹の牛を狩る狂気の沙汰をカメラに収めた、鮮烈なるインド映画!


4位「ドライブマイカー」

前号(135号)の「ドライブ映画」特集の際にも紹介した作品。村上春樹の短編を原作とし、チェーホフの戯曲が引用されながらも、監督独自の作品として抜群の完成度を誇ります。

他の作品と圧倒的に違うのは、あえて感情を乗せない演技演出。演じることの革新的概念を、この映画から学びました。他の監督作品では見られない創意工夫に溢れた作品です。

土木学会田中賞を受賞した安芸難大橋の美しい風景をバックに、2人のただならぬ会話劇が繰り広げられます。カンヌ4冠を獲得した若手のホープ、濱口竜介の最新作。ぜひ名前を覚えておいてください。

「ドライブマイカー」
 日本映画 上映時間:179分

監督:濱口竜介
出演:西島秀俊、岡田将生、三浦透子ほか
見所:日本映画の未来を担う濱口竜介。カンヌ4冠は伊達じゃない!


3位「クルエラ」

「マレフィセント」など近年ディズニーが手掛ける女性ヴィラン(悪役)モノに位置づけられる作品ですが、あまりのクオリティの高さゆえ3位に。「101匹わんちゃん」のクルエラをアカデミー賞女優エマ・ストーンが演じ、白黒と二分出来ない複雑な心情を見事に表現。

一方の服飾美術デザインはダルメシアンの肌色をモチーフにした白黒のデザインで、これまでのカラフルなディズニー映画とは一線を画します。映画の色表現に敏感な私は、雷を打たれたような感覚を覚えました。また、服飾デザイナーであるクルエラのキャラとも重なり、完全に服飾美術が主役となる稀有な作品でした。

「クルエラ」
 アメリカ映画 上映時間:134分

監督:クレイグ・ギレスピー
出演:エマ・ストーン、エマ・トンプソンほか
見所:カラフルなディズニー映画とは一線を画す白黒デザイン


2位「ファーザー」

「羊たちの沈黙」でアカデミー主演男優賞を獲得したアンソニー・ホプキンスが、認知症の役を演じ、再び同賞を獲得できた作品。認知症の父と介護する娘を基軸とし、ジャンルとしてはヒューマンドラマに見えるのですが、実際は「羊たちの沈黙」と同じくホラー・スリラーの演出が効いているのが今作の最大の特徴です。

全編認知症の視点で描かれており、描かれる出来事が真実なのか認知症によって捻じ曲げられた虚構なのかが入り混じり、主人公と同様に認知症が見る世界へと誘われます。誰がどんな発言をしたのかも、何が家にあるのかさえも忘れていき、最後は自身の存在さえ消え去っていく恐怖を観客に植え付けていきます。まるで、認知症VRのような映画体験。認知症を外側ではなく、内側から見せる=体験させる演出が見事としか言いようがありません。

「ファーザー」
 イギリス・フランス映画 上映時間:97分

監督:フロリアン・ゼレール
出演:アンソニー・ホプキンス、オリビア・コールマン
見所:認知症の恐怖を劇場で疑似体験!主人公と観客が渾然一体となる時、奇跡が起こる


1位「プロミシングヤングウーマン」

タイトルは将来を約束「された」女性という意味。ある事件により医者の道を閉ざされた女性が復讐を果たすために夜の街を闊歩するリベンジものですが、一つ一つの復讐が1秒たりとも目が離せない瞬間の連続で、鮮烈かつ戦律するスリラーとして抜群の完成度を誇ります。

そして、彼女の真の復讐相手と対峙する時には、医大生だった過去を表すかのように白衣を身にまといながら、ブリトニー・スピアーズの代表曲「Toxic」が不気味なスローテンポで流れます。ブリトニーは若い頃に歌姫として活躍していましたが、パパラッチによる攻撃や虐待等により、なんと成年被後見人の審判を受け、生活が制限されているのです。彼女も主人公と同じく将来を約束「された」女性なのです。

物語・映像・音響の全てが有機的に繋がり、一つの大きな意味を成す。これぞ映画でしか起こり得ない奇跡です。

「プロミシング・ヤング・ウーマン」
 アメリカ映画 上映時間:113分

監督:エメラルド・フェネル
出演:キャリー・マリガン、ボー・バーナム
見所:将来を約束「された」女性による爽快で壮絶な復讐劇!1秒たりとも目が離せない


2021年の映画は、「正しさとは何か」を問いかける

2021年の優れた作品の中で共通した特徴、それは「正しさとは何か」を問いかける作品が多かったこと。コロナ禍によって新しい価値観や生活が始まりましたが、映画界でも古い価値観を見直し、全く新しい視点で物事を捉える作品が目立ちました。

例えば、1月に公開された藤井道人監督作品「ヤクザと家族」では、法に人生を蝕まれる元暴力団員の余生を描いています。また、リドリー・スコット監督の「最後の決闘裁判」では「羅生門」スタイルで3人の視点から史実の真実を炙り出す内容で、吉田恵輔監督の「空白」は交通事故の被害者・(間接的)加害者を通して正しさを問いかけます。

そんな作品群の中でも、今年を象徴する作品は、春本雄二郎監督の「由宇子の天秤」でした。3年前に起きた女子高生のいじめ事件の真相を追いかけるドキュメンタリーディレクターである由宇子が主人公。年間ベスト2位に選定した「ファーザー」と同じく、劇中のほぼ全てが主人公の視点に絞って描かれることによって、決定的だった事件の真相が次第に揺らいでいき、究極の選択に迫られます。

事件を取材し真実を暴くことが「正しい」と、誰しも信じて疑わない当たり前の価値観が揺らぎ、この世の不条理な現実を突きつけられることになります。日々見聞きするニュースの裏に隠された、苦悩と葛藤する作り手の立場の疑似体験によって、ただの観客・傍観者では済まない映画体験が味わえます。

ポスタービジュアル

場面写真

春本雄二郎監督

『由宇子の天秤』
©2020 映画工房春組 合同会社
2021年9月17日(金)
渋谷ユーロスペース他
全国順次ロードショー

(Up&Coming '22 新年号掲載)