vol.1

プレゼンテーションの極意

株式会社 パーソナルデザイン

http://www.pdn.jp

プロフィール

唐澤理恵(からさわ りえ)

お茶の水女子大学被服学科卒業後、株式会社ノエビアに営業として入社。1994年最年少で同社初の女性取締役に就任し、6年間マーケティング部門を担当する。2000年同社取締役を退任し、株式会社パーソナルデザインを設立。イメージコンサルティングの草分けとして、政治家・経営者のヘアスタイル、服装、話し方などの自己表現を指南、その変貌ぶりに定評がある。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科経営学修士(MBA)、学術博士(非言語コミュニケーション論)。

赤ちゃんこそ最強のプレゼンテーターである

あなたは、プレゼンテーションが得意ですか?それとも苦手?

苦手な人は、得意になりたいと思いますか?

こんな質問を毎回講義の前にしていますが、「得意」に手を挙げる人はほぼ皆無といってもいいかもしれません。ほとんどの人は「苦手」のようですが、当然得意になりたいと思っています。それもそのはず。私たち日本人は義務教育でプレゼンテーションを習うことはほとんどありません。さらに高校に入れば、大学受験が控えています。プレゼンテーションは大学に合格するために必要ではありませんから、これまた習う機会のないまま大学進学、あるいは社会人突入です。

いきなり人前で話す機会が増えますが、苦手意識満載ですよね。なんとなく避けてやり過ごし、役職が就いたときにさあ大変! ! そこからが学びのスタートという経営幹部の皆さんをたくさんトレーニングしてきました。

つまり、習っていないものを得意とするはずはないのですから、なにも恥じることではありません。しかし、考えてみてください。赤ちゃんはどうですか? 言葉をうまく使わずとも、「お腹がすいた」「おむつ取り換えて」「抱っこして」を躊躇せず、肉体をフル活用して伝えます。しかも、お母さん、お父さん、おばあちゃん、おじいちゃんを否応なく動かしてしまうのです。相手を動かしてこそ上手いプレゼンテーターです。赤ちゃんという存在は欧米人・日本人関係なく、素晴らしいプレゼンテーション力保持者なのです。

実はそこに、プレゼンテーションが飛躍的に上達する大きなヒントが隠されています。

プレゼンテーションの語源は、プレゼントである

プレゼントとは、贈り物です。相手への日頃の感謝の気持ちだったり、何かを差し上げたいという衝動だったり、と贈る理由はさまざまですが、喜んでもらいたいという気持ちは同じですね。見返りを求める贈り物は意外と相手にも伝わってしまい、それだけで興ざめです。弊社の商品を買ってもらい自分の成績に結びつけたい、ノルマ達成のためにこの会社から大口注文をとりたい、などと考えてばかりのプレゼンテーションはとかく上手くいかないものですね。うまくいっても一過性でしょう。

あなたのプレゼンテーションで相手に何を与えられるのか、どんな価値を提供できるのか。まさにプレゼンテーションそのものが贈り物でなくてはいけません。モノとしての贈り物と違い、プレゼンテーションはソフトです。情報です。どんな情報を伝えられるかです。となると、そこに存在するのは、あなたの知識と経験にほかありません。そこにどんな価値があるかです。

同じ情報でも誰から受け取るかによって情報の質は変わります。セールストークが同じでも実績に差がつくのは、背景にあるものが違うからです。知識だけでなく経験に基づいたプレゼンテーションであるかが大きなポイントとなります。あなたの知識と経験には価値があります。それを発揮できるかどうかですね。

プレゼンテーションを成功させる3つのSとは?

プレゼンテーションの意味は、「表現、提示、紹介」とあります。ある行動を聴衆に促すことが狙うところですね。ビジネス用語として生まれていますから、戦略があってのプレゼンテーションです。つまり、3つのSのひとつは、StrategyのSです。そして、そこには物語が必要とされています。Storyです。以前、私が勤めていたノエビアという化粧品会社では、ドイツ・シュバルツバルトから生まれたという商品ルーツを語るように教わりました。かつ、自分自身がノエビアの化粧品を使ってみてどんなに肌が変わったかという自分だけの物語も含めて話すようにともいわれました。スピーチが上手な人をストーリーテラーと呼ぶように、相手に伝えたい思いやコンセプトを想起させるような自分の体験談やエピソードを「物語」として提示して印象づける手法です。テレビCMを見ていてもそこにいかに「物語」を描くかが最近では求められているようです。例えば、昭和の時代、車のコマーシャルといえばスタイリッシュに新車が登場するというものが多かった半面、最近のコマーシャルは家族や友人たちが山や海にでかけ、サーフィンしたりスケボーしたりする映像が流れ、車はほんの数秒しか登場しないなんていうCMも多いですよね。車を売るのではなく、ライフスタイルを売るという視点に変化していますので、とくにこの「物語」が大切です。

そして、3つめのSがStateです。日本語で心身状態と訳しておきましょう。この心身状態は極めて重要で、プレゼンテーションの土台といえます。いくら戦略をしっかり立て、ストーリー性もばっちり決まっていたとしても、伝えるあなたの体調が振るわなかったり、やけに自信がない仕草であったり、場にそぐわない服装であったりすることで、そのプレゼンテーションが素晴らしい結果を生むことは期待できません。

伝える媒体は、あなたという唯一無二の存在である

先ほどから述べてきましたが、基本中の基本は媒体である「あなた自身」です。あなたという存在は相手の目にどう映っているのか、あなたの知識や経験がどれだけの価値を相手に提供できるのか、まるで赤ちゃんのように素直な心で見返りを求めず、ありのままの自分でそこに立っているか。まずは、そこからスタートです。

真言宗の教えに『身口意』という言葉があります。やること(身)、言うこと(口)、思うこと(意)の三業を一致させる修行です。つまり、健康的な身体をつくり、美しい立ち居振る舞いを心がけ、言葉遣いを整えて初めて、心の中の状態が整うと説いています。(参考図書:自分を変える身口意の法則)

プレゼンテーションのテクニックあれこれを学ぶ前に、自分自身のStateを磨くこと。そのために、自らの才能・情熱を感じること・強み・人格・価値・知識・人生の目的の棚卸をお薦めします。さて、どんな自分がそこには見えてくるでしょうか。次回は、それを踏まえた上で、更なるプレゼンテーションの極意をお伝えします。

(Up&Coming '22 盛夏号掲載)



インデックス

Up&Coming

LOADING