ピルビスワーク実践講座

連載 第18回


動けるからだを造るピルビスワーク
1日3時間以上のデスクワークで体が止まると、心も止まる!?
“5分の体内リセット”で集中力と創造力を取り戻す

一般社団法人 日本ピルビスワーク協会

立花 みどり

profile

立花みどり

一般社団法人日本ピルビスワーク協会特別顧問
1980年代のフィットネス全盛期、多くのエアロビクスインストラクターの育成と、ダンススタジオの委託運営を手掛けた、エクササイズの草分け的存在。その後、『ヒトのカラダは骨盤が支えている』という点に着目し、一般社団法人日本ピルビスワーク協会を設立。以降、骨盤ブームの第一人者として活躍している。40年間に渡る研究と研鑽を重ねた“立花メソッド”は、人々の健康に大きな影響を与える施術というのみならず、その思想、哲学に至るまで洗練された人生論、生き方論であり、ヒトの生き方は姿勢に現れるという信念のもと活動を続けている。フォーラムエイトの健康経営の一環として毎週水曜に開催されているピルビスワークストレッチプログラムの講師も務めている。

テクノロジーの進化はとどまるところを知りません。その最前線を走るIT企業では、一日中パソコンと向き合い、座ったままの姿勢で仕事を終える日も少なくないでしょう。気づけば3時間、5時間と同じ姿勢のまま。一つのタスクを終える間もなく次の仕事が舞い込み、体を動かす時間を後回しにしてしまう―そんな日常を送っていませんか?

リモートワークが普及した今、通勤時間が減り、仕事時間の効率化が進む一方で、「動かない時間」が確実に増えています。しかし、その便利さの裏側で、私たちの「体内循環」や「神経バランス」には、想像以上の負担がかかっています。

座りっぱなしがもたらす“静かな不調”

長時間の座位姿勢では、下半身の筋肉がポンプの役割を果たさなくなり、脚や骨盤まわりの血流が滞ります。骨盤内にうっ血が起きると、腰や下腹のだるさ、むくみ、冷えが現れやすくなります。背中が丸まり、首が前に出る姿勢が続くと、腸腰筋や骨盤底筋が硬くなり、腹圧が下がって内臓の働きも低下。結果として「ぽっこりお腹」や「猫背体型」が定着してしまうのです。呼吸も浅くなります。

座りっぱなしで横隔膜が動かなくなると、胸の上部だけで吸う「胸式呼吸」になりやすく、リラックスに関わる副交感神経が働かなくなります。その結果、集中力の低下、イライラ、睡眠の質の悪化など、心身の不調が現れやすくなるのです。脳への酸素供給が減ると、思考力・判断力・創造性も落ちていきます。

つまり ―― 体が止まると、心も止まる。これは決して比喩ではなく、私たちの神経と循環のリアルな反応なのです。

たった5分で「体を再起動」する方法

でも安心してください。ほんの5〜10分、呼吸と骨盤を意識して動かすだけで、この悪循環を断ち切ることができます。

ここでは、オフィスでも自宅でもできる簡単な“リセットワーク”を4ステップでご紹介します。

STEP1

骨盤ロッキング

  1 イスに椅子に浅く座り、足裏をしっかり床につけます。

  2 鼻から息を吸いながら骨盤を少し前に傾け、背骨を伸ばす。

  3 吐きながら骨盤を後ろに傾けてお腹をへこませましょう。

  4 呼吸とともに骨盤がゆれる感覚を味わいながら10回。骨盤内の血流が回復し、腰の重さがスッと軽くなります。


STEP2

胸と横隔膜の呼吸ストレッチ

  1 背筋を伸ばし、肋骨を両手で挟みます。

  2 胸骨を中心に背骨を左右にねじりながら、鼻呼吸に集中。

  3 「タオルをしぼる」イメージで肋骨を動かしましょう。

  4 3呼吸×3セットで、胸が広がり呼吸が深くなります。頭がすっきりして集中力も戻ってきます。


STEP3

肩甲骨ゆらし

  1 椅子に座り、肩を前後にゆっくり大きく揺らします。

  2 徐々に腕全体も動かしていくと、背中の筋肉まで連動。

  3 ガチガチだった首や肩、胸がほぐれ、血流が一気に上がります。
全身の力を抜いてリラックスして行うのがポイントです。


STEP4

脚のつけ根伸ばし

  1 脚を前後に開き、骨盤と背骨をまっすぐ立てます。

  2 太もものつけ根を前へ押し出すようにして30秒キープ。反対側も同様に。

  3 さらに上半身をひねると骨盤内の血流が促進し、腸の働きも活性化。
腰痛予防や下腹の引き締めにも効果的です。


「運動」ではなく「体の再起動」

この4ステップを1〜2時間に1回行うだけで、血流・リンパの循環が整い、自律神経のリズムがリセットされます。仕事の合間にほんの数分、自分の体を“再起動”させる時間をとること。それが、パフォーマンスを最大化する最もシンプルで確実な方法です。忙しいときほど、体の“内側”は固まりやすくなります。だからこそ、1日の中で「骨盤を動かし、呼吸を通す5分間」を大切に。そのわずかな習慣が、姿勢も思考も、そして仕事の質までも軽やかに変えていきます。

体を動かすことは、心を整える第一歩。今日の仕事を始める前に、そして終える前にも ―― ほんの5分のリセットワークで、心身のスイッチをONにしてみてください。

(Up&Coming '26 新年号掲載)



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