世界最高峰のドライバーたちが日本に集う「FIA 世界ラリー選手権」の見どころを紹介

2022年の日本開催に向けて、WRCの魅力をチェック!

2022年11月、日本での世界ラリー選手権(World Rally Championship=WRC)が実現する予定だ。新型コロナウイルスの世界的な流行によって、2020年大会に続いて2021年大会の開催が見送られることとなってしまったが、来たるべき時に備えて、今回はWRCラリージャパンの楽しみ方や見どころを紹介していこう。

WRCとは?

あらゆる路面を駆け抜ける公道最速のモータースポーツ

WRCは、現在5つある4輪モータースポーツの世界選手権のうちのひとつ。文字どおりラリー競技の世界最高峰だ。ラリーとは、公道を舞台にしたモータースポーツであり、サーキットで開催されるレースとは開催形態が大きく異なる。公道をその主な舞台としていることや、ドライバーとコ・ドライバー(“共同運転者”の意味。走行時の指示や時間管理などでドライバーのサポートを行う)がふたりひと組で参加することなどが特徴として挙げられる。

競技は、閉鎖された複数の区間で1台ずつタイムアタックを行う。この区間はスペシャルステージ=SSと呼ばれ、閉鎖されているため速度制限はなく、エンジン全開での走行が可能となる。このタイムを積算して、最も速いクルーが勝者となる。少々むりやりにほかのスポーツで例えれば、サーキットレースは100m走などの陸上競技、ラリーはゴルフに近いかもしれない。18ホールを戦い終えた成績で勝敗を決めるのと似たようなイメージだ。

また、ラリーの場合はSSとSSをつなぐ移動区間を一般の交通とともに移動する。もちろん各国の交通法規に従い、安全運転での移動が鉄則だ。つまり一般道で信号待ちをしているラリーカーを見かけるようなサプライズもあり、そういった点もラリーならではの面白さと言えるだろう。

細かいルールを挙げていけばキリがないが、ラリーでは時間の正確性が要求されることもポイントのひとつ。移動区間や車両整備の時間は細かく決められており、タイムコントロールと呼ばれる各所のチェックポイントには、主催者によってあらかじめ決められた時間に到着しなければならない。この時間に遅れてしまったり、逆に早く着きすぎてしまうとペナルティが科されてしまうのだ。ただ単に峠道をかっ飛ばしているだけではなく、緻密な計算に基づいた頭脳戦なのである。

ラリーは特にヨーロッパでの人気が高く、有名なモンテカルロラリーは1911年にスタートするなど、100年以上にわたる長い歴史を持っている。そうした世界各地の主要ラリーを束ね、1973年にスタートしたのがWRCである。以来50年近く、世界35カ国で行われてきた。路面の状態は国や地域、季節によって様々だ。舗装路だけではなく、荒れた砂利や岩が転がる未舗装路、さらに雪や氷など、ありとあらゆる条件下で選手たちの技量とクルマの性能が試される。

そうした過酷さゆえ、これまで様々な日本メーカーが頂点を目指して挑戦を続けてきた。それは過酷な環境で自社製品の優秀性を世界に示すだけでなく、新たな技術開発につなげるという狙いもあったからである。現在参戦しているトヨタに加え、過去には日産、三菱、スバル、マツダ、スズキ、ダイハツ……ほぼすべての日本メーカーがチームを送り込んでいたのだ。

過去、日本では2004年から2008年、そして2010年と6回WRCが開催されており、いずれも北海道の未舗装路を舞台としていた。当時はスバル、三菱、スズキなどがトップチームとして参戦しており、2004年の初開催時にはスバルのペター・ソルベルグ(ノルウェー)が優勝を果たし、大きな人気を博した。

なお、ラリージャパン2021年大会は残念ながら開催見送りという結果になってしまったが、2022年大会はすでに11月10日(木)~13日(日)での申請が統括団体に対して行われている。場所は2021年大会と同じく愛知県・岐阜県とされており、日程の確定を含め、今後のさらなる情報を待ちたいところだ。11年ぶりのWRC日本開催に向け、多くの関係者が積み重ねてきた経験は間違いなく2022年大会に活きることだろう。

写真は2019年に開催されたセントラルラリー愛知・岐阜での様子。普段の生活道路やモリコロパークのサイクリングロードを疾走するラリーカーに歓声が上がる。サービスパークでは勝田らドライバーにサインをもらう行列ができた。

見どころ1

WRCならではの空気感“日常の中の非日常”を堪能しよう

ラリーはその性質上、観る側にとっても事前の準備が欠かせない競技だ。なにしろ競技が行われるのは拠点のサービスパークから遠く離れた場所なのである。『お目当てのSSがスタートする前に現地に到着する』ためには、何時に出発し、どのルートを通ればいいのか(あるいはどのシャトルバスに乗ればいいのか)、そして地元のグルメを堪能する時間も確保したい……というように、すべてを逆算して行動しなければならない。しかし、複雑なプランをあれこれと考え、ようやくたどり着いたSSで観る走りは格別だろう。

紅葉が色づく山間部の峠道や、のどかな集落の中をモンスターマシンが全力で駆け抜けていく迫力は、一瞬とはいえ忘れられないインパクトを残すはずだ。また、サービスパークでは傷ついた車両をみるみる修復していくメカニックたちの手際の良さを堪能することもできるし、移動区間で遭遇するラリーカーは、文字どおり日常の中の非日常と言えるものだ。そうしたWRCの空気感は、ほかのどのモータースポーツにもない独特なもの。まずはそうした部分をぜひとも堪能していただきたいところだ。

なお2021年大会のプランでは、愛知県長久手市の愛・地球博記念公園(愛称モリコロパーク)内サイクリングロードを舞台にしたSSや、岡崎市の乙川河川敷で行われるSSなど、容易に観戦が可能なSSが用意されていた点も見逃せない。2022年のWRC開催が実現した暁には、このプランと同じように観戦できるSSがいくつも設けられることを期待したい。ただし、WRCに限らず、モータースポーツの観戦には危険が伴うため、十分な注意が必要な点も忘れずに臨みたい。

見どころ2

トップカテゴリーのマシンは2022年からハイブリッドの“ラリー1”と呼ばれる車両に

2022年から、WRCで最も速いクラスの車両は“ラリー1”と呼ばれるクルマになる。規定の変更によってハイブリッドシステムを搭載し、モーターの力によってさらに運動性能が向上することが見込まれている。現在は2022年の開幕戦に備えて、トヨタ、ヒュンダイ、フォードの各チームが開発テストを繰り返してクルマの性能を上げようと努力している最中だ。

ちなみに2021年の最上位クラスの車両(ワールドラリーカー)は、トヨタ・ヤリスWRCとヒュンダイi20クーペWRC、フォード・フィエスタWRCの3車種。いずれもコンパクトなハッチバック車がベースとなっているが、元のクルマの形が分からなくなるほど迫力のあるボディと、巨大なリヤウイングなどの空力パーツをまとっている。

1 ラリーカーの整備拠点ではメカニックたちが忙しく作業を行う。車両には様々なエアロパーツが装着され、高速走行時の安定性を高めている。

ベース車両と異なるのは外観だけではない。1.6ℓ4気筒ターボエンジンと4WDシステムを搭載し、クラッシュなどの際に乗員の安全を守る鋼管ロールケージ、自動消火器も装備する。エンジンの最大出力は、約370馬力で各車横並びになるように規制されており、数字だけ見ると最近のスポーツカーと同じような数値だが、その分アクセルの応答性は研ぎ澄まされ、低回転からトルクを発揮できるような改良が施されている。さらにギヤ比や駆動系などはラリーで戦うために最適化されており、数センチ単位でのコントロールを可能にするハンドリング、時に50m級のジャンプをもこなせるほど懐の深いサスペンションと強靭なボディが与えられ、市販車とは次元の違う運動性能を発揮する。

ベース車両と異なるのは外観だけではない。1.6ℓ4気筒ターボエンジンと4WDシステムを搭載し、クラッシュなどの際に乗員の安全を守る鋼管ロールケージ、自動消火器も装備する。エンジンの最大出力は、約370馬力で各車横並びになるように規制されており、数字だけ見ると最近のスポーツカーと同じような数値だが、その分アクセルの応答性は研ぎ澄まされ、低回転からトルクを発揮できるような改良が施されている。さらにギヤ比や駆動系などはラリーで戦うために最適化されており、数センチ単位でのコントロールを可能にするハンドリング、時に50m級のジャンプをもこなせるほど懐の深いサスペンションと強靭なボディが与えられ、市販車とは次元の違う運動性能を発揮する。

ラリージャパンのような舗装路ラリーにおいては、近年では極限まで無駄を削ぎ落としたスムーズな運転が主流となっている。そのため、豪快さはあまり感じられないかもしれないが、針の穴を通すような正確なドライビングと、2022年車両のハイブリッドパワーに注目してほしい。

2 2021年のトップカテゴリーに参戦するマシンは3車種。それぞれをトップドライバーたちが操る。 

3 車両を操作する様々なスイッチはステアリングに集約。シフトチェンジはハンドル右側のパドルで行う。

見どころ3

チャンピオンの行方は?地元愛知県出身のドライバー勝田貴元にも注目!

シーズン最終戦となることが予想される2022年のラリージャパンでは、やはりチャンピオン決定戦となる可能性が非常に高い点が見どころのひとつと言えるだろう。トヨタ、ヒュンダイ、フォードそれぞれのドライバーが世界各地を転戦し、1年間を戦い抜いてきた総決算の戦いを目の当たりにできるチャンスだ。

2021年シーズンのチャンピオンを争っているトヨタのセバスチャン・オジエ(フランス)は、これまで7度(2013〜2018年、2020年)の世界王者に就いている現役最強のドライバーだ。今シーズンをもってフルタイムでのワークスドライバーから引退することを表明しているため、もしかしたら2022年のラリージャパンでその姿を見ることはできないかもしれないが、そのほかの注目ドライバーとしては、トヨタのエルフィン・エバンス(英国)、2021年の第7戦エストニアでWRC史上最年少優勝(20歳)を挙げたトヨタのカッレ・ロバンペラ(フィンランド)、2019年の世界チャンピオンを獲得したヒュンダイのオィット・タナック(エストニア)やティエリー・ヌービル(ベルギー)を挙げたい。

そしてなんといっても、日本人ドライバー勝田貴元の活躍にも期待がかかる。勝田は1993年生まれ、長久手市出身の28歳。2015年、サーキットレースからラリーに転向し、2021年から全戦にヤリスWRCで参戦している。第6戦サファリでは初めての2位表彰台を獲得しており、着実にレベルアップしていることを証明した。2019年には、WRCラリージャパンのテストイベントとして行われた『セントラルラリー愛知・岐阜2019』にヤリスWRCで参戦し、見事に総合優勝を飾っている。

勝田はラリージャパンに向けた意気込みについて次のように語っている。
「WRCが日本で開催されるということは、ラリー界においても僕自身にとっても大きなことだと思っています。その時のために、現在できる限りのことをして多くの経験を積み、ラリージャパン本番ではトップ争い、表彰台争いをできるような状況で挑んでいきたいと思っています。ラリージャパンではぜひ応援をしていただけたらと思います」
父の勝田範彦は全日本ラリー選手権のチャンピオンであり、祖父の勝田照夫もWRC参戦経験をもつラリー一家の3代目。このラリージャパンをきっかけにして、さらなる飛躍を果たすことは間違いない。

1 地元出身の勝田貴元。2021年は序盤から経験を積み、サファリラリーでキャリア最上位の2位表彰台を獲得。2022年の活躍にも注目だ。

2 7度の世界王者に君臨するセバスチャン・オジエ。今季も8戦中4勝を挙げる強さをみせている。 

3 海外のWRCではビッグジャンプなどの派手なアクションも見どころのひとつだ(写真はイタリアでの勝田)。

2021年世界ラリー選手権 開催カレンダー

T:ターマック(舗装路)/G:グラベル(未舗装路)/S:スノー/I:アイス

(執筆:合同会社サンク)

フォーラムエイト・ラリージャパン2021 関連サイト


(Up&Coming '21 秋の号掲載)



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