序盤から混戦が続く2023年WRC
チャンピオン争いの要となる中盤戦を制するのは誰だ

ラリーは第5戦ポルトガルまでを終え前年王者のカッレ・ロバンペラが選手権をリード

トヨタ勢が好調を維持、5戦中4戦で勝利

1月のラリーモンテカルロで幕を上げた2023年シーズンの世界ラリー選手権(WRC)は、シーズン唯一の雪上戦スウェーデンを経て、第3戦ラリーメキシコ(3月16〜19日)、第4戦クロアチアラリー(4月20〜23日)、第5戦ラリーポルトガル(5月11〜14日)が開催された。

2020年、世界を襲った新型コロナウイルスのパンデミックにより、土曜日の段階で途中終了となったメキシコは、実に3年ぶりのWRCカレンダー復帰となった今回も、多くの日本企業が進出する中部の工業都市レオンを拠点として開催された。

メキシコ最大の特徴となるのは、そのステージが設定された標高にある。WRCのトップカテゴリーに君臨する「ラリー1」規定マシンにとって、標高2000mにも達する高地を走るのは今回が初めて。各チームは、ヨーロッパに存在するメキシコに近いコンディションでテストを重ね、過酷なグラベル(未舗装路)ラリーへと挑んだ。

オジエが通算7回目のメキシコ制覇

3月16日木曜日夕方、ラリーは恒例となった古都グアナファトで盛大なセレモニアルスタートを実施。会場には待望のWRC復活を祝うように大観衆が集まり、最新ラリーカーへと割れんばかりの声援を送った。

スタート後に行われたグアナファトの市街地ステージに続き、17日金曜日から本格的なステージを走行。ラリー序盤にスピードを見せたのは、ヒョンデのエサペッカ・ラッピだった。路面に滑りやすい土や砂が乗ったグラベルラリーでは、浮き砂利の掃除役を強いられる先頭スタートが不利。今回、後方からの出走順を活かしたラッピは、トヨタのセバスチャン・オジエに5.3秒差をつけてラリー2日目を終えた。

3年ぶりのメキシコ戦となるも完勝してみせたオジエ
(右から3人目)

滑りやすい土や砂が乗ったグラベルラリー

標高2000mにも達する高地を激走するラリーカーと中継ヘリコプターのツーショット

古都グアナファトでのセレモニアルスタート。地下道は名物SSとして知られる

ところが、18日土曜日のSS11、スタートから10.01km地点で、首位を走行していたラッピがマシンのバランスを崩して、コース脇の電柱に激突。ラッピのヒョンデi20Nラリー1がステージを塞ぐ形で大破した一方、このステージをベストでまとめたオジエが、2番手にチームメイトのエルフィン・エバンスを従えて首位に浮上した。ラリー最終日、オジエはボーナスポイントが付与されるパワーステージも制する完璧なペースを披露。フルポイントで開幕戦に続くシーズン2勝目を獲得した。通算7回目のメキシコ制覇となったオジエは「フルポイントの30点を獲得できたんだから、間違いなく完璧な週末だったよ。記録や数字を残すのは素晴らしいし、もちろん誇りに思うけど、僕にとって一番大切なのは優勝することなんだ」と、笑顔で語っている。

ラリー終盤、猛烈なスパートで追い上げたヒョンデのティエリー・ヌービルが、わずか0.4秒エバンスを上まわり、2位表彰台を得ている。

第4戦クロアチアは悲しみの中で開催

開幕戦モンテカルロは雪やアイスコンディションとなるため、ノーマルなターマック(舗装)イベント初戦となるのがラリークロアチア。中世の建築物を数多く残した人気観光地、首都ザグレブが拠点となる。

クロアチアを前に、ラリー界は悲しみに包まれることになった。本番に向けたクロアチアの事前テストにおいて、ヒョンデのクレイグ・ブリーンがアクシデントに見舞われ、帰らぬ人となったのだ。あまりにも痛ましい事故を受けて、ヒョンデはクロアチアへの不参加も検討したが、遺族との話し合いの末、2台体制での参戦を決定。ヒョンデi20Nラリー1は、彼の母国アイルランドをイメージした追悼カラーリングが施されている。

弔い戦として2台体制で出走したヒョンデはブリーンの母国、アイルランド国旗をイメージしたラッピングで参戦。クロアチア戦を制したエバンスはアイルランド国旗を掲げ表彰台へと上がった

ラリーは4月21日金曜日から大波乱の幕開けとなった。SS2で優勝候補に挙げられていたトヨタのオジエとカッレ・ロバンペラが相次いでパンク。ブリーンの弔い戦として出走し、初日首位に立ったヒョンデのヌービルも2日目のSS11、スタートから約5㎞地点で立木にヒットしてストップしてしまう。この結果、2番手を走行していたトヨタのエバンスがMスポーツ・フォードのオィット・タナックに19.1秒差をつけてトップに浮上した。

エバンスとの差を詰めようとするタナックにも、SS15でハンドブレーキトラブルが発生。エバンスは25.4秒のアドバンテージを持って、最終日へと向かう。エバンスは最終日に残された54.48kmのステージを安全なペースで走り切り、21年のラリーフィンランド以来となる待望の勝利を手にした。

フィニッシュ後、エバンスは「週末はラリーに集中していたから忘れていたけど、大切な友人に会えなくなることが本当に悲しい。フィニッシュした瞬間、そして今もクレイグのことを考えている」と、今回の勝利をラリー前に亡くなったブリーンへと捧げている。2位にタナック、3位にヒョンデのラッピが入った。また、4台目のトヨタGRヤリス・ラリー1をドライブした勝田貴元も6位で走り切っている。

シーズンを通じて好調のトヨタ

初日から混乱を極めた第4戦クロアチア 

観客が見守る中細い道を駆け抜けていく

若き王者ロバンペラが今季初優勝

クロアチアから3週間のインターバルで迎えたのはファンの熱狂的な応援でおなじみの人気イベント、ポルトガル。2023年のWRCカレンダーは、ポルトガルから9月に開催される第11戦チリまで、7戦連続でグラベルイベントが続くことになる。

メキシコ同様、細かい砂がステージに敷き詰められたポルトガルのステージは、特に晴れた場合は走行順の早いドライバーが圧倒的に不利。ポイントランキング順のスタートとなった5月12日金曜日、序盤はMスポーツ・フォードのピエール-ルイ・ルーベやヒョンデのダニ・ソルドといった、ランキング下位のドライバーが、出走順を活かして好走する。

熱狂的なラリーファンが多いポルトガルの街並み

ベテランのソルドは今シーズン初の表彰台を獲得

しかし、ラリー中にセッティングを変更してペースを上げたトヨタのロバンペラが、SS5でソルドをかわして僅差ながらも首位に浮上。13日土曜日、早いスタート順から解放されたロバンペラは、枷を外されたようにライバルを圧倒するスピードで駆け抜ける。ロバンペラはこの日行われた7SS中5つのステージでベストタイムをたたき出し、2番手ソルドとの差を10.8秒から57.5秒にまで広げてみせた。

ラリー最終日、ボーナスポイントのかかる最終のパワーステージでもロバンペラがベストタイムを奪取。このパワーステージはビッグジャンプを含む名物ステージ「ファフェ(Fafe)」で行われ、コース脇にひしめく数万のスペクテイターが、ラリーカーによる数十メートル級のビッグジャンプに大歓声を送った。

総合優勝とパワーステージ制覇という、完璧な形でラリーを締めくくったロバンペラは、ドライバーズ選手権トップに浮上。王者として挑んだ2023年、ここまで勝利のなかったロバンペラは今シーズン初勝利に「この勝利をずっと待ち望んでいたんだ。今シーズンは厳しい局面もあったけど、クリーンにラリーを戦えば、いい走りができた時は勝負できるとずっと思っていた。ポルトガルでこうやって優勝し、トップに返り咲くことができて本当にうれしいよ」と、喜びを語った。海岸沿いで行われた表彰式には多くの観客が集まり、ロバンペラに祝福の喝采を送った。

表彰台はトヨタとヒョンデが席巻した

今シーズン初勝利のロバンペラ。
シャンパンファイトで喜びを表現

マニュファクチャラーズ選手権は、5戦中4勝を挙げたトヨタがヒョンデに32ポイント差をつけて首位を快走している。ちなみに、ロバンペラはポルトガルの翌週に来日。福島県エビスサーキットで開催された「フォーミュラドリフトジャパン(FDJ)」第2戦にトヨタGRカローラで参戦し、見事2週連続での優勝を果たしている。

ポルトガルから続くグラベルイベント。土煙をあげて走るトヨタのロバンペラ

ポルトガルきっての名物ステージ「ファフェ(Fafe)」。
ビッグジャンプにオーディエンスから大歓声が上がる

海岸沿いで行われた表彰式では多くのファンが詰めかけロバンペラを祝福した

2023年4月13日、ヒョンデのワークスドライバーを務めていたクレイグ・ブリーンが、第4戦クロアチアに向けたプレイベントテスト中のアクシデントで亡くなった。享年33。同乗していたコ・ドライバーのジェームス・フルトンは無事だった。ブリーンは1990年2月2日生まれ、アイルランド出身。2009年のポルトガルでWRCデビューを果たし、プジョー、シトロエン、ヒョンデ、Mスポーツ・フォードなどで活躍を見せた。今シーズンからヒョンデに復帰し、第2戦スウェーデンではヒョンデi20Nラリー1をドライブし、自身最上位となる2位表彰台を獲得している。

この悲劇的なアクシデントを受け、ヒョンデ・モータースポーツはクロアチアの欠場を検討。しかし、ブリーンの遺族の意向をふまえ、ティエリー・ヌービルとエサペッカ・ラッピの2台での参戦を決めた。チームはブリーンへの哀悼の意を表し、彼の母国アイルランド国旗をイメージした、グリーン/ホワイト/オレンジの特別カラーリングをヒョンデi20Nラリー1に施した。ラリー会場では式典が行われ、各チームの車両にもブリーンのステッカーが貼られた。

(執筆:合同会社サンク)

(Up&Coming '23 盛夏号掲載)



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