vol.45
このコーナーでは、ユーザーの皆様に役立つような税務、会計、労務、法務などの総務情報を中心に取り上げ、専門家の方にわかりやすく紹介いただきます。今回は、生成AIと個人情報保護法について解説いたします。
電子帳簿保存法 ~2024年1月以降に注意すべき点~
2024年1月1日より、電子帳簿保存法に関連した事項がいくつか変更されます。今回は特に、「電子取引データ保存の義務化」と「優良な電子帳簿」に関する変更の2 点を取り上げてご紹介します。
1.電子取引データ保存義務化への考え方の相違
2022年1月1日から施行されている、いわゆる「改正電子帳簿保存法」では、電子取引データの紙保存が認められなくなり、電子データのまま保存することが義務付けられています。
「電子取引」とは文字通り、電子データを用いてやりとりする取引のことです。代表的な例として、電子決済、メールによる取引、EDI取引(Electronic Data Interchange)などが挙げられます。こうした取引において受け渡しした注文書、契約書、領収書などいった書類のデジタルデータのことを「電子取引データ」と呼びます。法改正以前は、この電子取引データ(たとえば領収書のPDF データなど)をプリントアウトして紙で保存することが認められていましたが、現在は電子データのまま「保存要件」[1]を満たした形式で保存しなければならないのです。
この「保存要件」を完璧に守って電子取引データを保存するためには、相応の準備や設備投資が必要になり、事業者にとっては負担となりかねません。そうした事情を考慮したのか、施行後から2023年12月31日までの期間は「宥恕措置」が設けられることとなりました。この期間内に行われた電子取引に関しては、データのプリントアウトを提示・提出することができれば、「保存要件」を満たせなくても構わないとされたのです。この措置は事実上、紙での保存を認めるものであると解釈されています。
「宥恕措置」は2023年12月末に適用期限を迎え、廃止されました(そのため、2024 年1月から「義務化された」と言われることが多くあります)。ところが、「宥恕措置」に代わって新たに「猶予措置」が設けられることになったのです。多少の差異はある[2]ものの、実質的には「宥恕措置」が本則化されたと考えてよいでしょう。
この「猶予措置」については以下のような解釈の相違があります。
解釈1:「猶予措置」はあるが、あくまで「相当の理由」がある場合に限られるのであり、原則として電子取引データの保存には対応しなければならない、とする考え方。
				解釈2:原則としては全事業者が対応すべきであるが、「猶予措置」があることを踏まえれば、電子保存に対応するか否かは任意だといってよい、とする考え方。
このような考え方の違いがあること、また実務的なハードルの高さ(要件を満たした会計周辺ソフトとの連動やメンテナンス、イレギュラー取引の仕訳修正など※)や、さらには会計ソフト各社の対応状況がまちまちであることなども影響しており、義務化への足並みがなかなか揃わない状況が生じています。
※ただし、システム対応は必須ではないとされています。システムの導入が難しい事業者は、「改ざん防止のための事務処理規定」を策定し遵守していれば「保存要件」上は問題ありません。しかしながら、電子取引データは日付ごと/取引先ごとに整理し、検索できるような状態で保存することが求められているため、「システム導入をしない」という選択肢はあまり現実的ではなさそうです。
2.「優良な電子帳簿」と過少申告加算税の軽減
国税関係帳簿(例:法人税にかかわる仕訳帳など)をコンピュータで作成し、一定の要件に従って[3]電子保存しているとき、その帳簿は「優良な電子帳簿」であると認められます。
「優良な電子帳簿」に認められると、過少申告加算税の軽減措置を受けられるというメリットがあります。電子帳簿はデータ保存も紙での保存(プリントアウト)も両方許されていますが、電子保存の推進のため、このようなインセンティブが設けられているのです。
この制度についても2024年1月から変更となる点があるのですが、その説明へ移る前に、まずは過少申告加算税と軽減措置制度について簡単に確認しておきましょう。
確定申告後、納めた税金が少なすぎたことが税務署の調査などによって発覚した場合、不足分のほかに過少申告加算税を納めなければなりません(不足分の10%[4]にあたる金額)。このとき、「優良な電子帳簿」を保存していて、なおかつ、あらかじめ(法定申告期限よりも前に)「過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書」を税務署に提出していた事業者は、過少申告加算税の税率が10%から5%へ軽減されるのです。
さて、この軽減措置が適用されるのは、所得税、法人税、消費税の申告についてです。つまり、それに関係する帳簿を「優良な電子帳簿」にする必要があるのです(これらの帳簿は区別のため、「特例国税関係帳簿」と呼ばれています)。どの帳簿が「特例国税関係帳簿」にあたるかを以下の表に整理しました。
特例国税関係帳簿
| 所得税 | 法人税 | 消費税 | |
| 
						  青色申告者が保存しなければならない帳簿 ・仕訳帳 ・総勘定元帳 ・その他必要な帳簿*  | 
                      
						  消費税の事業者が保存しなければならない帳簿 ※消費税法に規定される帳簿  | 
                    ||
3.2024年1月からの変更点
2024年1月から変更となるのは、*が付された「その他必要な帳簿」の範囲です。従来(2023年12月31日まで)は、すべての青色関係帳簿がそれに該当していました。そのため、軽減措置を受けるためには膨大な数の帳簿を「優良な電子帳簿」にしなければなりませんでした。この度の変更によりその条件が緩和され、特定の帳簿のみが「その他必要な帳簿」に該当するようになったのです。
それではどの帳簿が「その他必要な帳簿」に含まれるのか。これも同様に表としてまとめました。
「その他必要な帳簿」に該当する帳簿(2024年1月~)
| 記載事項 | 帳簿の具体例 | 
| 売上げ(加工その他の役務の給付その他売上げと同様の性質を有するもの等を含む。)その他収入に関する事項 | 売上帳 | 
| 仕入れその他経費又は費用(法人税に係る優良な電子帳簿にあっては、賃金、給料手当、法定福利費及び厚生費を除く。)に関する事項 | 仕入帳、経費帳、 賃金台帳(所得税のみ)  | 
                    
| 売掛金(未収加工料その他売掛金と同様の性質を有するものを含む。) | 売掛帳 | 
| 手形(融通手形を除く。)上の債権債務に関する事項 | 受取手形記入帳、 支払手形記入帳  | 
                    
| その他債権に関する事項(当座預金の預入れ及び引出しに関する事項を除く。) | 貸付帳、借入帳、 未決済項目に係る帳簿  | 
                    
| 有価証券(商品であるものを除く。)に関する事項 | 有価証券受払い簿 (法人税のみ)  | 
                    
| 減価償却資産に関する事項 | 固定資産台帳 | 
| 繰延資産に関する事項 | 繰延資産台帳 | 
最後に
以上、2024 年1月1日から変更される事項のうち、2点を簡単にご紹介しました。
電子帳簿への対応は進みつつあり、法整備も着実に行われています。いよいよ本格化、というその直前の時期であるため、過渡期特有の混乱もさまざまあるでしょう。今回ご紹介した過少申告加算税の軽減措置についても、電子保存推進のためのインセンティブとして設けられているはずが、かえって混乱を招いているという側面は否めません(もちろん、活用して損はない制度ではありますが)。
今回の記事をひとつの参考としてお役立ていただければ幸いです。
出典・引用
[1]「真実性の確保(例:改ざん防止のための措置)」、「可視性の確保(例:ディスプレイの設置)」など。詳しい要件については、国税庁の特設サイトなどを参照してください。
                [2]「猶予措置」では電子取引データの「ダウンロードの求め」にも応じなければならないと定められています。紙での保存が事実上許されたからといって、電子データの保存をしなくてもよいというわけではないので注意が必要です。
                [3]「優良な電子帳簿」と認められるための主な要件は以下の3つになります。
				  ・訂正削除履歴の保存
				  ・帳簿間の相互関連性の保存
				  ・検索機能の確保
				  そのほか「システム関係書類等の備付け」や「ディスプレイやプリンタ等の備付け」などいった基本的な要件も規定されています。国税庁のサイトには、「優良な電子帳簿」の要件を満たしているかどうか簡単に確認できるフローチャートやチェックシートなども用意されています。
                [4]当初の申告額や新たに納めることになった税金の金額によっては、必ずしも10%とは限りません。また、税務署の調査を受ける前に修正申告を出した場合など、過少申告加算税がかからないケースもあります。詳しい計算方法に関しては、国税庁のサイトなどを参照してください。
					
参考
国税庁 電子帳簿等保存法関係
						
						https://www.nta.go.jp/law/johozeikaishaku/sonota/jirei/
						国税庁 電子帳簿等保存制度特設サイト
						
						https://www.nta.go.jp/law/johozeikaishaku/sonota/jirei/
						国税庁 確定申告を間違えたとき
						https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2026.htm
						国税庁 優良な電子帳簿の要件
						https://www.nta.go.jp/law/johozeikaishaku/sonota/jirei/05.htm
					
監修:久次米公認会計士・税理士事務所
(Up&Coming '24 新年号掲載)




