|
2025年のアメリカ・メジャーリーグ(MLB)のワールドシリーズは、本当に面白かった。
ナショナル・リーグの覇者ロサンゼルス・ドジャースで、大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希の日本人3選手が大活躍。トロント・ブルージェイズを4勝3敗で破った。
とりわけ山本投手は第2戦に完投勝利のあと、第6戦にも勝利投手となり、最終第7戦にも連投。9回表の敗戦寸前にドジャースが同点に追いついたあとの9回裏1死満塁でリリーフ登板すると、そのピンチを併殺打に切り抜けたあと、延長11回まで投げきり、味方のホームランで3勝目。見事にシリーズMVPに輝いた。
佐々木投手も、ポストシーズンの試合に何度も抑えの切り札として登板。大谷選手もリーグ優勝のかかった対ブリュワーズ戦で、投手として10奪三振、打者として3打席連続ホーマーを放つ超人的活躍を見せ、まさに日本人選手がいなければドジャースの"世界一"もなかった、と断言できる闘いぶりだった。
が、同じ時期、日本のスポーツ界で、もうひとつ別の大快挙があったことも忘れてはならない。
それは10月19日、東京味の素スタジアムで行われたサッカーの国際試合で、日本代表が過去に0勝11敗2分けと1度も勝てなかったブラジル代表に、3対2と勝利したことだ。
ワールドカップ最多優勝5回を誇るブラジルを相手に、前半0対2とリードされながら、後半怒濤の連続攻撃による逆転勝利は、ブラジルがネイマールなど超スーパースター選手を欠いていたとは言え、日本も三苫薫選手や遠藤航選手を欠いていたわけで、ブラジル代表が直前の韓国戦に5対0で勝ったことも考慮すると、これは真に見事な勝利と言えた。
もっとも、だからといって日本代表チームが目標とする「ワールドカップ優勝に近づいた」などと簡単に言えないことは当然だ。
それよりむしろ、ここで注目したいのは、サッカーとベースボール(野球)の国際組織や国際試合が、まったく異なる形態にあることだ。
サッカーの場合は、FIFA(国際サッカー連盟)に加盟している全世界211の国と地域によって争われるワールドカップが存在する。
また1960年以来、ヨーロッパと南米の各リーグの優勝クラブが闘っていたインターコンチネンタルカップも、今では6大陸と開催国のリーグの優勝クラブが参加する「FIFAクラブ・ワールドカップ」に発展。25年には世界から上位32クラブが出場するようになった。
一方、世界のベースボール(野球)は、2006年以来ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が存在する。とはいえ主催は、MLB(アメリカ大リーグ)とMLBPA(MLB選手会)の設立したWBCI(WBC株式会社)で、参加は24の国と地域。国際野球組織のWBSC(世界野球ソフトボール連盟・加盟国は全世界138の国と地域)公認の国際大会とはいえ、サッカーのワールドカップと較べると世界的ではなく、マイナー感は否めない。
野球の"世界クラブ選手権"と言える(自らそう名乗っている)ワールドシリーズは、世界で最もハイレベルの野球であることは事実だが、MLB所属のチームしか参加できない。
もっとも、今は全世界的なワールドカップやクラブ・ワールドカップを行っているサッカーも、かつては現在のMLBのベースボールによく似た組織だった。
1863年イングランドで生まれたサッカー連盟(フットボール・アソシエーション=FA)は、1871年に大学や地域対抗のクラブによる「FAカップ争奪選手権」を開催。1950年には参加チームが92クラブにまで増加。
そこから現在のプレミアリーグをはじめとするイギリスやヨーロッパの各リーグにもつながるプロリーグも生まれたのだが、サッカー界で世界最高の価値はイングランドの"FAカップ"だと大英帝国が主張。欧州各国や南アメリカ、大英帝国の植民地でも盛んになったサッカーをイングランドが支援し、優秀な選手はイングランドやスコットランドやウェールズやアイルランドのチームに招いて(引き抜いて)活躍させるようになった。
そんな大英帝国中心主義のサッカーに対して不満を唱え、1904年にフランスを中心に新たなサッカーの世界組織が創られたのがFIFA(Fédération internationale de football association)なのだ。発足当初はフランス、オランダ、ベルギー、スウェーデン、スイス、スペインの7ヵ国だったが、やがて南北アメリカ、東部ヨーロッパ、アフリカにも加盟国を増やし、1930年にはウルグアイで第1回ワールドカップを開催。
その間、"FAカップ"によるサッカーの"大英帝国中心主義"を貫き続けたイギリスも、第2次世界大戦後の植民地の独立と大英帝国(イギリス連邦)の没落により、英国4協会(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)もFIFAに加盟。今日の"世界のサッカーのあり方"が確立され、FIFAの大きな発展に繋がったというわけだ。
こうしてサッカーの世界的発展の歴史を振り返ってみると、現在のアメリカ中心の世界のベースボール界は、サッカーで言えばFIFAの誕生前、20世紀初頭に位置しているようにも思える。
サッカーと野球では、使用する道具の種類や数量も全然違えば(野球のほうが圧倒的に多い)、ルールも野球のほうが圧倒的に複雑で、野球がサッカーのように全世界的に広まるには、まだまだ時間がかかるだろう。だから、野球の"アメリカ中心主義"は、まだまだ続くだろう。
が、かつては日本に、その"アメリカ中心主義"を打破しようとした人物も存在した。それは"社会人野球の父"とも呼ばれた故・山本英一郎氏だ。
晩年の山本氏は、WBCが始まる以前に日本シリーズの優勝チームとワールドシリーズの優勝チームが対決する"スーパー・ワールドシリーズ"の開催をMLBに同意させたり(残念ながら、その計画は9・11同時多発テロで雲散霧消となった)、韓国、中国、台湾、オーストラリアのチームによる"ウエスト・パシフィックリーグ構想"を唱え、その優勝チームのワールドシリーズへの参加を訴えていた。
それら山本英一郎氏の"構想"は、けっして荒唐無稽でもなければ夢物語でもなく、「誰もが平等に参加する資格がなければならない」という近代スポーツの「平等性」の大原則に従った、極めて真っ当な主張と言えた。
ワールドシリーズの日本人選手の活躍に喜び、賞賛するするのもいいが、"スポーツの正しいあり方"を考え直す必要もありそうだ。
|