vol.33

スポーツ文化評論家 玉木 正之(たまき まさゆき)

プロフィール

1952年京都市生。東京大学教養学部中退。在籍中よりスポーツ、音楽、演劇、 映画に関する評論執筆活動を開始。小説も発表。『京都祇園遁走曲』はNHKでドラマ化。静岡文化芸術大学、石巻専修大学、日本福祉大学で客員教授、神奈川大学、立教大学大学院、筑波大学大学院で非常勤講師を務める。主著は『スポーツとは何か』『ベートーヴェンの交響曲』『マーラーの交響曲』(講談社現代新書)『彼らの奇蹟-傑作スポーツ・アンソロジー』『9回裏2死満塁-素晴らしき日本野球』(新潮文庫)など。2018年9月に最新刊R・ホワイティング著『ふたつのオリンピック』(KADOKAWA)を翻訳出版。TBS『ひるおび!』テレビ朝日『ワイドスクランブル』BSフジ『プライム・ニュース』フジテレビ『グッディ!』NHK『ニュース深読み』など数多くのテレビ・ラジオの番組でコメンテイターも務めるほか、毎週月曜午後5-6時ネットTV『ニューズ・オプエド』のMCを務める。2020年2月末に最新刊『今こそ「スポーツとは何か?」を考えてみよう!』(春陽堂)を出版。
公式ホームページは『Camerata de Tamaki(カメラータ・ディ・タマキ)

ワールドシリーズでは日本人選手大活躍!サッカーは日本代表チームがブラジルに勝利!そこで考えてみたい。野球とサッカーの「国際的な相違点」と日本野球の歩むべき道は?

2025年のアメリカ・メジャーリーグ(MLB)のワールドシリーズは、本当に面白かった。

ナショナル・リーグの覇者ロサンゼルス・ドジャースで、大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希の日本人3選手が大活躍。トロント・ブルージェイズを4勝3敗で破った。

とりわけ山本投手は第2戦に完投勝利のあと、第6戦にも勝利投手となり、最終第7戦にも連投。9回表の敗戦寸前にドジャースが同点に追いついたあとの9回裏1死満塁でリリーフ登板すると、そのピンチを併殺打に切り抜けたあと、延長11回まで投げきり、味方のホームランで3勝目。見事にシリーズMVPに輝いた。

佐々木投手も、ポストシーズンの試合に何度も抑えの切り札として登板。大谷選手もリーグ優勝のかかった対ブリュワーズ戦で、投手として10奪三振、打者として3打席連続ホーマーを放つ超人的活躍を見せ、まさに日本人選手がいなければドジャースの"世界一"もなかった、と断言できる闘いぶりだった。

が、同じ時期、日本のスポーツ界で、もうひとつ別の大快挙があったことも忘れてはならない。

それは10月19日、東京味の素スタジアムで行われたサッカーの国際試合で、日本代表が過去に0勝11敗2分けと1度も勝てなかったブラジル代表に、3対2と勝利したことだ。

ワールドカップ最多優勝5回を誇るブラジルを相手に、前半0対2とリードされながら、後半怒濤の連続攻撃による逆転勝利は、ブラジルがネイマールなど超スーパースター選手を欠いていたとは言え、日本も三苫薫選手や遠藤航選手を欠いていたわけで、ブラジル代表が直前の韓国戦に5対0で勝ったことも考慮すると、これは真に見事な勝利と言えた。

もっとも、だからといって日本代表チームが目標とする「ワールドカップ優勝に近づいた」などと簡単に言えないことは当然だ。

それよりむしろ、ここで注目したいのは、サッカーとベースボール(野球)の国際組織や国際試合が、まったく異なる形態にあることだ。

サッカーの場合は、FIFA(国際サッカー連盟)に加盟している全世界211の国と地域によって争われるワールドカップが存在する。

また1960年以来、ヨーロッパと南米の各リーグの優勝クラブが闘っていたインターコンチネンタルカップも、今では6大陸と開催国のリーグの優勝クラブが参加する「FIFAクラブ・ワールドカップ」に発展。25年には世界から上位32クラブが出場するようになった。

一方、世界のベースボール(野球)は、2006年以来ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が存在する。とはいえ主催は、MLB(アメリカ大リーグ)とMLBPA(MLB選手会)の設立したWBCI(WBC株式会社)で、参加は24の国と地域。国際野球組織のWBSC(世界野球ソフトボール連盟・加盟国は全世界138の国と地域)公認の国際大会とはいえ、サッカーのワールドカップと較べると世界的ではなく、マイナー感は否めない。

野球の"世界クラブ選手権"と言える(自らそう名乗っている)ワールドシリーズは、世界で最もハイレベルの野球であることは事実だが、MLB所属のチームしか参加できない。

もっとも、今は全世界的なワールドカップやクラブ・ワールドカップを行っているサッカーも、かつては現在のMLBのベースボールによく似た組織だった。


1863年イングランドで生まれたサッカー連盟(フットボール・アソシエーション=FA)は、1871年に大学や地域対抗のクラブによる「FAカップ争奪選手権」を開催。1950年には参加チームが92クラブにまで増加。

そこから現在のプレミアリーグをはじめとするイギリスやヨーロッパの各リーグにもつながるプロリーグも生まれたのだが、サッカー界で世界最高の価値はイングランドの"FAカップ"だと大英帝国が主張。欧州各国や南アメリカ、大英帝国の植民地でも盛んになったサッカーをイングランドが支援し、優秀な選手はイングランドやスコットランドやウェールズやアイルランドのチームに招いて(引き抜いて)活躍させるようになった。

そんな大英帝国中心主義のサッカーに対して不満を唱え、1904年にフランスを中心に新たなサッカーの世界組織が創られたのがFIFA(Fédération internationale de football association)なのだ。発足当初はフランス、オランダ、ベルギー、スウェーデン、スイス、スペインの7ヵ国だったが、やがて南北アメリカ、東部ヨーロッパ、アフリカにも加盟国を増やし、1930年にはウルグアイで第1回ワールドカップを開催。

その間、"FAカップ"によるサッカーの"大英帝国中心主義"を貫き続けたイギリスも、第2次世界大戦後の植民地の独立と大英帝国(イギリス連邦)の没落により、英国4協会(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)もFIFAに加盟。今日の"世界のサッカーのあり方"が確立され、FIFAの大きな発展に繋がったというわけだ。

こうしてサッカーの世界的発展の歴史を振り返ってみると、現在のアメリカ中心の世界のベースボール界は、サッカーで言えばFIFAの誕生前、20世紀初頭に位置しているようにも思える。

サッカーと野球では、使用する道具の種類や数量も全然違えば(野球のほうが圧倒的に多い)、ルールも野球のほうが圧倒的に複雑で、野球がサッカーのように全世界的に広まるには、まだまだ時間がかかるだろう。だから、野球の"アメリカ中心主義"は、まだまだ続くだろう。

が、かつては日本に、その"アメリカ中心主義"を打破しようとした人物も存在した。それは"社会人野球の父"とも呼ばれた故・山本英一郎氏だ。

晩年の山本氏は、WBCが始まる以前に日本シリーズの優勝チームとワールドシリーズの優勝チームが対決する"スーパー・ワールドシリーズ"の開催をMLBに同意させたり(残念ながら、その計画は9・11同時多発テロで雲散霧消となった)、韓国、中国、台湾、オーストラリアのチームによる"ウエスト・パシフィックリーグ構想"を唱え、その優勝チームのワールドシリーズへの参加を訴えていた。

それら山本英一郎氏の"構想"は、けっして荒唐無稽でもなければ夢物語でもなく、「誰もが平等に参加する資格がなければならない」という近代スポーツの「平等性」の大原則に従った、極めて真っ当な主張と言えた。

ワールドシリーズの日本人選手の活躍に喜び、賞賛するするのもいいが、"スポーツの正しいあり方"を考え直す必要もありそうだ。

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FORUM8 Rally Japan 2025開催直前2回にわたりWRC(FIA世界ラリー選手権)とラリーの魅力についての番組が配信されました。MCにフリーアナウンサー川島ノリコ氏と、この番組でMCを務め、自動車分野にも精通する小崎仁久氏をゲストに迎え、ラリーの基本から見どころまでを多角的に紹介。

下見走行であるレッキの重要性、ドライバーとコ・ドライバーの役割、一般道を信じられないスピードで走るラリーカーの迫力をわかりやすく解説。滑りやすい路面をどう攻略するかといった技術面の話も盛り上がりました。

また、FORUM8がWRCを支援する理由について安全運転の普及のためという話題にも触れ、ここでは F1ドライバーとして知られる佐藤琢磨氏 の言葉が引用されました。「車の性能に対して99%の走りでは負ける、しかし101%では事故する。100%のときに勝てる」。この言葉が示すように、モータースポーツ全体は 究極の安全の上に成り立つ競技であり、ラリーもまた速さだけでなくコントロールを競うスポーツであることが語られました。

内燃機関の魅力や未来のモータースポーツの姿まで、幅広い視点でラリーを深く伝え、FORUM8 Rally Japanの見どころ、アクティビティの紹介も。これを見れば今からすぐにラリーが楽しめる内容です!

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(Up&Coming '26 新年号掲載)