はじめに

 福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第48回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回はウェリントンの3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞお楽しみください。

Vol.47

ウェリントン:世界最南首都

大阪大学大学院准教授 福田 知弘

プロフィール

 1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授、博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design Research In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、大阪市都市景観委員会 専門委員、神戸市都市景観審議会 委員、吹田市教育委員会 教育委員、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など兼務。著書などに、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

都市と建築のブログ丸10年

都市と建築のブログは、2009年9月に始まった。早いもので丸10年を迎えた。はじめた頃は10年も続くとは正直 思っていなかったのだが、何とかここまで辿り着けたのは、読者の皆様、そして、フォーラムエイトのスタッフのお陰である。心より感謝申し上げたい。これまで、次に挙げる46の都市・地域や建築を紹介させて頂いた。世界は広い、と改めて感じた次第である。

日本:
潮来と佐原、信濃大町、南信、南砺、郡上八幡、近江八幡、京都、大阪、神戸、瀬戸内の島々、神山、ぶんご大野、沖縄
アジア:
タージマハル、チェンナイ、アンコールワット、シンガポール、済州島、蘇州、南京、香港と広州、台湾、台中、イスタンブール、バーレーン、ホーチミン、ミャンマー
ヨーロッパ:
ローマ、ヴェネツィア、ウィーン、デルフト、ヴォロスとアテネ、サントリーニ島、チューリッヒとヴァイル・アム・ライン、ハンブルグ、フライブルクとゴスラー、ストラスブール、ウッチ
北米:
ボストン、キンベル美術館
南米:
クリチバ、サンパウロ、マチュピチュ
オセアニア:
シドニー、ニューカッスル、メルボルン
47回目は、ニュージーランド・ウェリントンを。

都市と建築のブログ訪問履歴

ウェリントン

ニュージーランドは我が国とよく似た島国(島の形状や配置が北海道や本州と何となく似ているのは魔訶不思議)であり、面積は日本の約4分の3である。総人口は約495万人で、人間よりも羊の方が圧倒的に多い。主要都市は、オークランド(北島)、クライストチャーチ(南島)、そして首都ウェリントンである。

ウェリントンは北島の南西端に位置し(北海道でいえば函館の位置)、北島と南島を隔てるクック海峡に面した天然の良港である。南太平洋の美しい入り江に面した街。中心部はコンパクトであり、目抜き通り・キューバストリートを起点に、美味しいコーヒーや食事を頂きながら、歩きまわって観光できる【図1,2,3】。花や緑が多く絵葉書のような街並み。海と丘があって豊かな自然。およそ1000年前にニュージーランドを最初に発見したとされる先住民・マオリ族の文化の触れ合い。人口は、郊外を含めると40万人超。

1 キューバストリート

2 フラットホワイト

3 食事

ウェリントンの緯度は南緯41度であり、世界中で最も南に位置する首都である。一方、北緯41度を辿れば、青森県むつ市、イスタンブール、ローマの南に差し掛かる。そう思うと、北半球により多くの陸地が集まっていることを改めて感じる。調べてみると、

  1. 北半球は、陸地面積:海洋面積=2:3
  2. 南半球は、陸地面積:海洋面積=1:4

であり、

  1. 陸半球(陸地面積が最大になる半球)は、フランス・パリ付近を中心として、陸地:海洋=49:51
  2. 水半球(海洋面積が最大になる半球)は、ニュージーランド沖合を中心として、陸地:海洋=11:89である。

ウェリントンは、「Top 5 Windiest Cities in the World」によれば世界一風が強い街に輝いた(色んなランキングがあるものだ)。海からの風が常に吹きつけて、年間を通じた平均風速が一番大きく、「ウィンディ・ウェリントン」という別名を持つ。因みに2番目以降の街は、リオ・ガルゴス(アルゼンチン)、セントジョンズ(カナダ)、プンタ・アレーナス(チリ)、ダッジ・シティ(米)。

ウェリントンが首都である理由をご存知だろうか?それは、北島と南島のちょうど真ん中にあったためである。北島と南島が分裂しそうになった時に、最大都市・オークランドからウェリントンに首都を移転させることで、国の空中分解を防ごうとしたそうである。

映画産業の都

 意外かもしれないが、ウェリントンは、映画産業の都と呼ばれ、世界有数の映画技術と才能が集結している。例えば「ロード・オブ・ザ・リング」3部作のロケや制作活動の拠点はウェリントンである。

 

 ウェタ社はニュージーランドの若き映画制作者が1993年に立ち上げた企業。代表作は「アバター」「キングコング」など世界的な大ヒット映画。現在は、デジタル処理に特化した「ウェタ・デジタル」と特殊効果の「ウェタ・ワークショップ」に分かれている。

 ウェタ社が経営する施設「ウェタ・ケーブ」では、その名の通り、洞窟のような構造になっており、小道具の制作現場や映画で使われていたミニチュアなど映画の舞台裏を見学することができる【図4,5】。

4 ウェタ・ケーブ

5 ウェタ・ワークショップ

ビクトリア山

 ウェリントンは半島の街らしく、丘陵地に囲まれている。丘陵地を超えると風景がガラッと変わったりする。代表的な丘陵地、ビクトリア山は標高196mで、山頂からはウェリントンの市街地や港をパノラマで一望できる【図6】。視界が良ければ、南島も見えるそうだ。【図7】。「ロード・オブ・ザ・リング」のロケがはじまった場所でもある。風はさすがにかなり強い。

6 ビクトリア山より市街地

7 ビクトリア山より空港 向こうは南島?

 また、ビクトリア山からランプトン港を隔てた市街地からは、ケーブルカーが丘の上の住宅地まで走っている【図8】。1902年に開通して創業100年を超えるウェリントンの名物であり、麓のラムトンキーと標高122mのケルバーン駅を5分で結んでいる。ケルバーン駅付近で景色を眺めながらのランチは最高であった【図9】。

8 ケーブル乗り場

9 ケルバーン駅からの眺め

まちなみ

 国会議事堂の閣僚執務棟はハチの巣と呼ばれる特徴的な外観【図10】。無料の見学ツアーが用意されていて、持ち物すべてをロッカーに収めなければならないが、歴代首相の肖像画や、中々立ち入ることのできない部屋を眺めることもできる。前面の広場には、イギリス連邦王国16ケ国の国旗が並ぶ。

旧セント・ポール教会は、ウェリントンで最初に作られた英国国教会の大聖堂【図11】。1866年に建造されたゴシックスタイルの木造教会で、ステンドグラスが印象的であった。訪問時は、一部改修中であった【図12】。

10 国会議事堂

11 旧セント・ポール教会

12 旧セント・ポール教会・改修中

 フツナチャペルは住宅街の中にある。ジョン・スコットが設計した。小さな建物であるが、三角形を基調とした外観はより大きく感じさせ、内部のステンドグラスの美しさは言うまでもない【図13,14】。

13 フツナチャペル外観

14 フツナチャペル内観

 ニュージーランド国立博物館「テ・パパ・トンガレワ」の名前は、マオリ語で「宝のある場所」という意味。絶滅した巨大な鳥の骨も展示されていた。博物館は港沿いに面しており、散策は心地よい【図15,16】。

15 ウェリントン・ウォーターフロント・ウォーク

16 ウェリントン・ウォーターフロント・ウォークからの満月

南十字星

 南十字星(みなみじゅうじ座)は本州ではみることができないので、楽しみのひとつだ。少し離れると星座を眺めるのにふさわしい真っ暗な場所にも辿り着ける。但し、全天88星座の中でもっとも小さく、探すのは一苦労した。北半球とは星座の並びが逆なのも影響したかもしれない。例えば、さそり座もひっくり返っていた。南十字星は、確かに小さな星座であったが、美しい十字の形をしていた。

 昔であれば、星座版と夜空を見比べながら、星座を探したものだが、わかりやすいもの以外は視線が切れた瞬間に見失ってしまう。今は、ARアプリが色々と出ており、本当に便利になった。

ラグビーワールドカップ

 ラグビーワールドカップ2019は日本の活躍もあって盛り上がった。夏季オリンピック、FIFAワードカップに次ぐ、世界3大スポーツ祭典と呼ばれている大会である。札幌、釜石、熊谷、東京、横浜、袋井、豊田、東大阪、神戸、福岡、熊本、大分の12会場で試合が行われた。これに加えて、22都道府県・59自治体が公認チームキャンプ地となった。

 ニュージーランド代表は「オールブラックス」の愛称で知られ、過去8回の大会で3度の優勝を誇る超強豪である。試合前の儀式「ハカ」はマオリ伝統の戦いの踊り。これを見るだけでも鳥肌が立つ。

3Dデジタルシティ・ウェリントン by UC-win/Road
「ウェリントン」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ

 今回は、ニュージーランド北島の南端に位置する首都ウェリントンを作成しました。ビクトリア大学ウェリントンのケルバーンキャンパスにある、テ・ヘレンガ・ワカ・マラエ(ニュージーランドの先住民マオリ族の集会施設)や、ウェリントンのシンボルであるケーブルカーの表現を行いました。マラエではマオリ族の踊りながら歌う「ワイアタ・ア・リンガ」をFBXキャラクタを用いて表現しました。またケーブルカーでは、LEDライトの点滅によるトンネルライトショーの雰囲気も表現しました。

マラエへのゲート前。歩行者ネットワークのODマトリックスを使用し、信号と歩行者のタイミングを制御

パケーブルカー。可動モデルとストリートライトを使用したトンネルライトショー

マラエ内。FBXキャラクタモデルを使用し、マオリ族の踊りを再現

VR-Cloud®で体験!特設ページ にて、3Dデジタルシティの操作・閲覧が可能です。

「UC-win/Road CGサービス」では、UC-win/Roadデータを3D-CGモデルに変換して作成した高精細なCG画像ファイルを提供します。

今回の3Dデジタルシティのレンダリングでは「Shade3D」を使用しました。マラエでハカを踊るマオリ族。壁面の彫刻はモデリングせず、法線マップを使用し凹凸の表現を行っています。

(Up&Coming '19 秋の号掲載)