はじめに    福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第52回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回は北海道の3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞお楽しみください。
Vol.52 

阿寒摩周:神秘
  大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design Research In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、都市と建築のブログ 総覧(単著)、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

ひがし北海道へ

国立公園満喫プロジェクトとして阿寒摩周国立公園で推進されている社会実験「川湯の森ナイトミュージアム」を体感するために、ひがし北海道へ向かった。森と湖と星と火山を活かして川湯温泉地区を再生するプロジェクト。ディレクターを務めたLEM空間工房・長町氏に案内して頂いた様子は、拙著「都市と建築のブログ 総覧(昨年11月に出版)」に詳しく紹介している。本稿では、この地域について。

関空から釧路へ。関空第2ターミナルは、ターミナルビルから飛行機に直接乗り込むボーディングブリッジはなく、エプロンに一旦出て、タラップから飛行機に乗り込む。エプロンでは、強い風、飛行機のエンジン音や油の匂い、荷物運搬や点検整備用の車が行きかう光景を感じとれる。

たんちょう釧路空港でレンタカーを借り、川湯温泉へ向かう。

けあらし

朝5時半、ロビーに集合して、屈斜路湖のカヌー乗り場へ(図1)。屈斜路湖は、釧路湿原を抜けて太平洋に注ぐ一級河川・釧路川が流れ出る源でもある。この、釧路川源流をカヌーでクルーズ。夜明け前、水面から立ちのぼる霧が湯気のように見えた(図2)。「けあらし」と呼ばれる。屈斜路湖のそばには、温泉が流れ出している川があり、気温と水温の温度差が大きくなるため、ダイナミックなけあらしが発生するそうだ。さらに先週、白鳥が越冬のために飛来していた。ご来光を眺めて、湖から川にゆっくりと入っていく(図3)。

1 いざ出発! 2 けあらしと白鳥 3 ご来光

道はなく、カヌーでしかアクセスできない自然の空間。川幅は狭く、木々が両側からせり出している。源流に日が差し込めば、けあらしが浮かび上がる(図4)。「鏡の間」と呼ばれるスポットは、湧き水が噴出しており、透明度が高い。

4 釧路川源流

昨夜訪れた「川湯の森ナイトミュージアム」では、ARで森の動物たちに出会えた。スマホに標準インストールされているWebブラウザでAR体験ができるため、インターネットさえつながれば世界中どこでも森の動物たちに出会えるという隠し技がある。川湯の森で体験したARキツネをカヌー上でテストしていたら(図5)、何と本物のキツネが川っぺりを走っていた!

ARキツネは、現実空間のどこにでも表示させることができるとはいえ、現実空間のコンテクスト(文脈)に調和させた方が仮想モデルとはなじむ。例えば、源流をバックにARキツネが登場すると、見たこともない風景だからハッと驚いてインスピレーションを得る人もいれば、あり得ない風景だと違和感を覚えてしまう人もいる。一方、ARヒグマの場合は結構なじんでいる(図5)。さらには、川から本物の鮭がヒグマの目の前に飛び出してくれば、と空想は膨らむ。

尚、釧路川本流には、河口に至るまでダムが設置されていないため、屈斜路湖の釧路川源流から河口までカヌーで下ることもできるそうである。

5 ARキツネとヒグマ

6 国立公園内の森

鮭にくわえられた熊

屈斜路湖から弟子屈まで南下して、そこから西へ、阿寒湖に向かう。国立公園内の森は紅葉が始まっていることもありどこも見事であった(図6)。エゾシカが道路を横断したり、道路沿いを歩いている姿も見られた。エゾシカは、以前は絶滅の危機となっていたが、近年は自動車との衝突事故が年間2000件もあるほど、社会問題となっている。

阿寒湖では、鶴雅アドベンチャーズSIRIを訪ねた。マリモの写真を見せてもらい、こんなに大きいのかと驚いた(図7)。現在、マリモは世界中を見渡しても阿寒湖だけなのだそう。
7 阿寒湖とマリモ

次に、阿寒湖アイヌコタン(集落)で数々の木彫りを眺める(図8)。同行したメンバーが「熊ぼっこ」や「鮭にくわえられた熊(熊が鮭をくわえる、のではなく)」への想いをお店のおばちゃんと共に熱く語っているのに惹かれて、この置き物を2つとも買うことになった。まさに衝動買いであるが、今では、置き物チームの一員として研究室に鎮座している。

8 アイヌコタンと熊ぼっこ

阿寒湖から屈斜路湖への経路は原始林を再び抜ける。途中、双湖台という見晴し台から、パンケトーとペンケトーの湖が樹林の中に見えた(図9)。次に、双岳台という見晴し台もあって、ここからは雄阿寒岳と雌阿寒岳が眺められる(図10)。それにしても、本当に静かである。

9 双湖台 10 双岳台

美幌峠は、屈斜路カルデラの外輪山に位置する標高525mの峠。ここからの景色はまさにパノラマ(図11)。湖の中央には、湖中の島としては日本最大である中島が見え、その先には「川湯の森ナイトミュージアム」の舞台である硫黄山(アトサヌプリ)や川湯温泉、さらには摩周湖のある摩周カルデラの外輪山が望める。肉眼では見えないが、地図で確認すると、この方角のずっと先は、根室である。

11 美幌峠

摩周ブルー

摩周湖は、日本で最も透明度が高く、世界でもバイカル湖(ロシア)に次いで2番目に高い。世界一だったときもある。湖の深さは211.5mと深く、透明度の高さと相まって藍色のような青い湖面は「摩周ブルー」と呼ばれる(図12)。

霧が有名な摩周湖であるが、今回は2日連続で霧にならず「摩周湖ブルー」に出会えた。展望台にいた旅人チームは、30年前に訪れた霧の摩周湖の思い出を懐かしそうに話していた。第1展望台、第3展望台は川湯温泉からアクセスが良いが、特別保護地区ということもあり、反対側の裏摩周展望台へはかなり遠い道のりだった。川湯温泉から裏摩周展望台までの直線距離は11kmだが、道路では40kmほど走った。

 
12 裏摩周展望台での夜明け

国立公園のはしご

裏摩周展望台を後にして、牧場を眺めながら(図13)、釧路湿原へ向かう。阿寒摩周国立公園から釧路湿原国立公園へ、国立公園をはしごするという贅沢さ。サルボ展望台(アイヌ語で「サル」は「葺原、湿原」、「ボ」は「子」、つまり、小さい葺原の意味)に登る(図14)。塘路湖、大小の沼、釧路川、葺原、そして、遠くには阿寒岳まで一望できる。釧網本線を走る電車の音が遠くから聞こえてきた。

釧路の町に着いた。釧路川の河口・釧路港で、遠路はるばるやってきたのであろう、鳥取県境港市の漁船発見(図15)!以前、水木しげるロードリニューアルや境港市民交流センター(仮称)プロジェクトのため境港を訪問した折、北海道の漁船を見かけた時と同じ感動。そしてもうひとつ湧いてきた疑問は、昨日、釧路川源流で出会った水は、いつ、ここまでやって来るのだろう?

今回の旅は、川湯の森ナイトミュージアムの見学が中心であり、移動はそれほどしていないつもりであったが、2日後、再び釧路空港に戻ってみると合計462kmも走っていた。大阪から東京までとほぼ同じ距離を走ったことになる。

13 牧場
14 サルボ展望台より塘路湖と湿原 15 釧路港で境港の船に出会う
 


3Dデジタルシティ・阿寒摩周 by UC-win/Road
「阿寒摩周」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
今回は、北海道の阿寒摩周国立公園で見ることが出来る神秘的な自然現象をVR空間上に再現しております。
摩周湖第三展望台から霧に包まれた摩周湖の素晴らしい風景をご覧頂けます。シナリオを実行する事で、その向こうにある釧路川の上でカヌーの体験が出来ます。鏡のような水面の上をカヌーが流れ、水面から立ち上る「けあらし」という現象は煙機能で表現しております。
環境設定を変更する事で季節が切り替わり、体験の途中で木々の隙間から北海道の野生動物たち、ヒグマ、エゾシカ、キタキツネが現れて動き出します。
画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
釧路川で冬から夏に切り替わるカヌー体験
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煙機能で霧の摩周湖を再現 シナリオの体験で、北海道の野生動物に出会える




CGレンダリングサービス

「UC-win/Road CGサービス」では、UC-win/Roadデータを3D-CGモデルに変換して作成した高精細なCG画像ファイルを提供します。今回の3Dデジタルシティのレンダリングでは「Shade3D」を使用しました。水面の光沢をはじめ、雪に隠れた地面のザラザラ感、花の透明感を表現しております。また、「パーティクルフィジックス」、「ボリュームライト」機能を使用してけあらしと太陽光を表現し、高品質な画像を生成しています。

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(Up&Coming '21 新年号掲載)
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