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ユーザー紹介/第132回
株式会社建設技術研究所
東京本社構造部/北海道支社北海道水工室
株式会社建設技術研究所
URL http://www.ctie.co.jp/
所在地 東京都中央区/札幌市中央区
事業内容 :
(東京本社構造部)東日本の各種橋梁の設計/
(北海道支社北海道水工室)北海道内の河川構造物の設計

橋梁(東京本社構造部)や河川構造物(北海道水工室)の
設計で豊富な実績
橋脚や橋台の設計、柔構造樋門の設計、ESなど
各種ソフトを駆使、3Dパラメトリックツールにも期待

「部内には若手が多いこともあり、情報通信技術(ICT)の活用に関する方針として安易に誰かに頼むのではなく、自分で実際に触って動かすということを大切にしています」

その際、例えば、新たなソフトや拡張オプション、それらを動作させるため高性能パソコンなどが必要と考えれば、すぐに上長へ申請して整備する。そうしたスタンスを反映し、どのような橋梁形式の設計にも対応できるようフォーラムエイトの橋梁設計関連ソフト(UC-1各種ソフト)は殆どの種類のライセンスを有するに至っている、と株式会社建設技術研究所東京本社構造部主任の鵜飼隼氏は述懐。現在はRPA(Robotic Process Automation)やAI(人工知能)の設計への導入、3D測量技術やBIM/CIM環境の整備・活用を推進。それら最新技術を採り入れながら、発注者のニーズ以上に対応できるように心掛けている、といいます。

また、図面作成においては近年、従来主流だった2DCADから3DCADへの移行が進展。併せて、CIMを詳細設計のステップから採り入れるパターンが広く見られる、と同社北海道支社北海道水工室主幹の田中健太氏は位置づけ。それに対し、同社ではCIMを業務の効率化や設計の高度化に繋げるべく、予備設計あるいは基本設計といった業務の初期段階からの適用に注力。そこではCIMを含めツールを使う側個々の技術力が重要になるとの観点から、そのための技術研鑚にも努めている、と語ります。

今回ご紹介するユーザーは、株式会社建設技術研究所において東日本を中心とする各種橋梁の設計業務に携わる東京本社構造部、および札幌を拠点に北海道内の河川構造物の設計業務を担う北海道支社北海道水工室の両部門です。ともに長年にわたり「UC-1シリーズ」の各分野に対応する各種設計ソフトを中心に使用する中で、10年ほど前からは3D積層プレート・ケーブルの動的非線形解析「Engineer’s Studio®」(ES)を利用。当社が現在開発中の「3Dパラメトリックツール」についても高い関心を示します。

【東京本社構造部】左から三谷昂大氏、吉田太輝氏、雷暁宇氏、鵜飼隼氏、薄井正幸氏


 総合建設コンサルタントの組織力をベースに、橋梁や河川構造物の設計で独自のアプローチ

日本で最初の建設コンサルタントとして財団法人建設技術研究所が創立したのは、1945年。その後、1963年に建設技研株式会社として設立(翌年に現行の株式会社建設技術研究所へと改称)しています。創業当初から河川や水工分野を中心に事業を拡大してきた同社は、次第に道路をはじめとする広範なインフラの整備へと展開。国土交通大臣の建設コンサルタント登録の全21部門に技術者を配しています。同社は現在、本社(東京都中央区)の下に東京と大阪の2本社、北海道、東北、北陸、中部、中国、四国、九州、沖縄の8支社、本社・支社管内の計42事務所、および国土文化研究所を設置。国内外12グループ会社を加えたグループ全体で約3500名の専門技術者集団を擁します。

今回お話を伺った東京本社構造部は、橋梁の計画から設計までのフェーズを担当。東日本を中心に、あらゆる構造形式に対応する新設橋梁の設計、既設橋梁の耐震補強設計、維持修繕設計などに従事。国交省や地方自治体からの業務をメインとしつつ、近年は高速道路会社による長大橋やJCT橋梁など大規模プロジェクト関連の業務も増加。設計条件が複雑化してくるのに伴い、複数部署と連携して最適な橋梁形式を提案する体制を築いています。また、若手技術者の比重が高いのも特徴で、新型コロナ禍によりテレワークの機会が増す中、各人が工夫し先輩らとのコミュニケーション環境の維持に努めているといいます。

これに対し北海道水工室は、技術者3名とアシスタントから構成。道内を中心とする築堤、護岸、樋門、あるいは遊水地といった河川構造物の設計に携わっています。その主要な業務の一つとして継続的に対応しているのが樋門の詳細設計で、2019年度には同業務では北海道開発局優良工事等表彰(局長表彰)を受けています。



 橋脚や橋台の設計ソフトへの評価と要望

早くから様々な当社ソフトが用いられてきた東京本社構造部では「入社するとまず、フォーラムエイト製品の使い方を覚えるように教育され、それらを使えるのが当たり前の環境になっている」(鵜飼氏)実態があります。

その一端として同部技師の吉田太輝氏は、自ら設計で多用するというUC-1シリーズの「橋脚の設計・3D配筋」や「橋台の設計・3D配筋」を例示。いずれも最新版では3D仕様になっていて、入力する数値に基づき構造形状や配筋情報を3D空間に分かりやすく表示される。併せて、<部分係数法・H29道示対応>となり、新たに導入された部分係数などに対する考え方についても丁寧なヘルプが理解の参考になる、と評価。その上で、現実的には難しいだろうと一定の制約を認めつつ、計算書では入力から途中計算、結果までを全ては追えないブラックボックスな部分もあり、そこを追える仕組みがあると良いと言及。また、新設橋梁とともに多くの案件をこなす既設橋梁の耐震補強設計では、氏らが想定する設計順序と現場での施工順序に多少の相違を生じるケースもあるという。例えば、増し杭をした後に橋脚上側の巻き立て補強をすることを前提としていたのに、施工現場において順番が逆になることで設計の中身が変わってきてしまうケースがあると吐露。それを計算の中に容易に反映できるような仕組みがあれば、との思いを述べます。

Engineer’s Studio®を用いて斜張橋の解析モデルを作成。複雑な構造解析、構造物の形状を視覚的に把握できるため、合意形成に役立つ


 柔構造樋門の設計で省力化やエラー防止の改善メリット

2010年に入社して以来、様々な河川構造物の設計に携わる過程で当社の各種設計ソフトも使用してきたという、北海道水工室主任の佐々木洋人氏。ただ、実は樋門に関しては元々、樋門に付属する門柱や胸壁、翼壁、函体、しゃ水工などに対しそれぞれ別のソフトやエクセル、あるいは自社制作の独自プログラムを使用。言わばバラバラに計算していたため、何か修正が入る都度、それらすべてに修正を加えなければならず、手間のかかる作業になっていたと振り返ります。

しかし自身が現水工室へ異動後、5年ほど前から「柔構造樋門の設計・3D配筋」の利用機会が増えてくるとともにソフトへの理解も深化。一つのソフトで前述の付属構造物すべての条件を入力し、ワンストップで計算できるメリットを実感。例えば、樋門の設計では函体の横に胸壁が接しているといった構造になるため、従来は他の構造物向けに計算した結果を別の構造物向け計算にも反映させる必要があり、それを手作業で対応していました。それが同ソフトは、そうした計算結果をワンタッチでインポートする機能を搭載。当該作業の省力化はもちろん、転記の際に生じ得るヒューマンエラーも防止。また、同ソフトの2D図面作成機能をベースに少し改造を加えることで、配筋図の作成に使えるなど設計計算の後工程での利用にも配慮。導入当初は使い方自体を試行錯誤していたものの、現在は設計の効率化を支援する心強いツールになっていると位置づけます。



 Engineer's Studio®は各部門で有効活用

2007年に河川構造物のレベル2地震動対応を求める耐震性能照査指針(案)・同解説が策定。水門をはじめ、樋門、排水機場等、河川構造物には多種多様な構造形式があり、3Dで解析・表現できる、汎用的なFEM解析のソフトをと探す中、Engineer’s Studio®(ES)と遭遇。その、1)河川構造物の多様な形状をモデリングできるようなカスタマイズ性の広さ、2)道路橋示方書に準拠し河川構造物の基準にも適合した照査の設定が可能、3)解析結果や条件設定をビジュアル的にも確認可能 ― などの面から導入を決定。現在では北海道水工室において河川構造物の耐震設計に欠かせないツールとされるに至っています。

一方、特に解析作業は出来るだけ社内で行うこととしており、自ずとESを使用する機会が多くなっているという東京本社構造部。同部主任の三谷昂大氏は7年ほど前に関わったコンクリートアーチ橋の耐震補強設計で初めてESを使用。入社3年ほどでまだ知らないことが多くある中、解析モデルを一から作成。モデルが出来上がっていく過程が視覚的に分かり、動的解析を動画で確認できることなどから、作業を楽しむ感覚が醸成されました。また、最近取り組んだ斜張橋の設計業務では、景観に配慮しつつ合理的な構造を検討するため、ESを使って解析モデルを作成。複雑な構造解析とともに、主塔や橋桁の形状などを細部も含めて形を変えながら景観検討を実施。発注者を交えた合意形成でもその有用性が発揮されています。

北海道支社北海道水工室では、Engineer’s Studio® で特殊な水門形状のモデリング(左)、固有値解析(右)を行った


 今後の設計業務におけるツール活用、3Dパラメトリックツールへの注目

「効率化とエラー防止(つまり品質確保)という2つの目標を達成するため、このようなツールをどう使っていけば良いか、そこを深化させていきたい」。北海道水工室の古野貴史室長は広くソフト利用への考え方をこう語ります。

建設業界では今後、CIMへの対応がますます求められ、設計業務も3Dモデルの活用をベースとする検討へとさらに移行していく流れがあります。そこでは設計計算や2D図面、関連する3Dモデルをいかに整合性のある形で連携させるかが課題になる、と鵜飼氏は言及。その意味で、フォーラムエイトが今月新リリース予定の「3Dパラメトリックツール」が3D設計シーンにもたらす可能性に大きな期待を示します。

また、フォーラムエイトの設計ソフトは入力がしやすく、それに応じて正解に近い初期値も設定されているため、仮に専門的な知識がなくても数値を入れていけば、ある程度正しい計算データを作成できてしまう面があります。ただ、それは「計算上OK」という数多くの正解の一つに過ぎず、設計として妥当なのかどうかという判断をしてくれるわけではない、と佐々木氏は指摘。

「それゆえ、CIMを含め、構造計算などのソフトはあくまで我々を手助けしてくれるツールなのだ、という認識を強く持つことが大事なのです。効率的に業務を進めるためのツールは欲しいのですが、ツール一辺倒になると技術力が失われてしまう側面もあります。自己の技術的な研鑽をまず土台とし、その上でICTを活用していくというアプローチが重要なのではと思います」

【北海道支社水工室】左から、佐々木洋人氏、古野貴史氏、田中健太氏
執筆:池野隆
(Up&Coming '21 新年号掲載)



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