はじめに    福田知弘氏による「建築と都市のブログ」の好評連載の第7回。今回も、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。この3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞ、お楽しみください。
Vol.7 

サントリーニ:エーゲ海に舞い降りた白い集落
 大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

エーゲ海にそそり立つ島

ギリシャの首都アテネから50分ほど飛行機に乗ると三日月形の島が見えてきた。サントリーニ島だ。青いエーゲ海からそそり立っている赤茶けた断崖絶壁と、その崖の頂きにある雪のような白いまちなみのコントラスト【図1】。60度近くの斜度をもつ断崖ができたのは、サントリーニが有史以来火山の噴火を繰り返してきたから。断崖の高さは海面から200~300m。そのため、クルーズ船が着くオールド・ポートと人々が暮らすフィラやイアの町との行き来は、ゴンドラリフトを使うか、580段もの階段をロバで上り下りすることになる。

このような荒々しい地形の島に人類が最初に足を踏み入れたのは、なんと紀元前3000年頃らしい。当時の人々は、サントリーニでどんな生活をし、どんなことを考えていたのだろうかと、ついつい気になる。


ヴォールト屋根のワケ

町は白一色。といっても、良く見ると屋根やドアにはカラフルな色も使われているのだが、石灰で塗られた白壁は、エーゲ海の強い日差しを避ける実用性も兼ね備える。建物は、断崖をくり抜いて作られた構造のため、室内の多くは洞窟であり天井はヴォールト(かまぼこ型)となっている。さらに、洞窟から前面に張り出して建物を構成する時、ヴォールトは屋根となる。このようにして、断崖にはヴォールトの屋根やファサードが幾重にも形成され、サントリーニの集落の特徴となっている【図2】。島の書店で見つけた、Efthymios Warlamis著「LERNEN VON SANTORIN」にはこの成り立ちを図解で詳述されていた。そしてこのヴォールト屋根を活かしたホテルや店舗がサントリーニのウリの一つ【図3】。

【図1】イアより眺めるフィラの集落

【図2】ヴォールト屋根のまちなみ

【図3】サントリーニ夕景

他のウリといえば、サントリーニに住む猫たち【図4】やウェディング【図5】。そして日の入り。海は主要な町から西方向に広がっているので、夕日が白い町を赤く染めていくのだ。

【図4】サントリーニ  【図5】ウェディング

下への広がり

「門をくぐったその先には建物が見える」というのが我々の感覚ではないだろうか。しかしサントリーニでは、崖傍の門をくぐったその先に見えるのは空と海と島。テラスやオーニングは見えたとしても、建物自体は門からは見えないことが多い。まちなみは下に向かって広がっている。【図6】

町にはヒューマンスケールの路地が続く【図7】。集落が断崖に沿って形成されているので、3次元的で複雑な路地となっている。路地を歩いていると、悪気は無いのだが、いつの間にか、他人の建物の敷地内に入り込んでしまう。また、下のレストランの屋上が上のレストランのテラスとして使われている。どうやら、建物の所有関係や官民境界が日本人の感覚と違ってかなり曖昧な感じ。景観としては、柵や塀に囲まれた場合と比べて、オープンなので見通しが利いている。

【図6】レストランの入り口 【図7】路地

10日兄貴

イアは島の北端にある町で、サントリーニの中心であるフィラよりも素朴な感じ。立ち寄った本屋でNikos Rigopoulos著「Light And Colour Of Santorini」というサントリーニの写真集の表紙が一風変わっており目にとまった。写真集自体は、赤・青・黄・緑・白というテーマに沿ってサントリーニの自然や文化が収められている。パラパラとめくるとNikos氏は1971年生まれで私と同い年。本屋のスタッフに聞くと、なんとイア市内でギャラリーを経営しているという。そこでギャラリーに伺うと、ご本人が丁度いらっしゃった。しばらく雑談しながら誕生日を尋ねると、なんと私より10日だけ兄貴だと判明。極東の島国とサントリーニ島とは、9,278kmも離れている。こんなところまで来て、たった10日間しか誕生日が違わない方と偶然出会えるなんて。お陰で大いに意気投合【図8】。

【図8】Nikos氏のギャラリーにて

Location-based SNS

Nikos氏との出会いは、彼の写真集を偶然見つけたことから始まっている。これは物凄く感動した出会い方なのだが、もし、彼を事前に知ることができたならば、よりスムーズに出会えたことだろう。旅行前は色々と忙しいものなので、このような情報は旅行中に手軽な操作で取得したいものだ。人と人とをつなぐネットワークサービスとして、SNSの普及は目覚ましく、筆者も既にFacebook、Twitter、LinkedInなどに登録している。SNSは既に多様化・多機能化の一途をたどっており、現在地を共有するLocation-based SNSもある。確かに、自動的に現在の位置情報が他人と共有されてしまうことはリスクを伴う。

一方、個人的な経験でいえば、ある夏の夜、筆者が下関から姫路へ向かうひかりレールスターと、建設ITジャーナリストが四国から東京へ向かうサンライズ特急とが岡山駅で偶然同じ時刻にすれ違うというサプライズがあった。この場合、互いの位置はGPSやWiFiなどで自動的に取得した訳でなく、各々が現在地や状況をTwitterにコマ目につぶやいてのこと。もしTwitterをしていなければ、すれ違っても互いの存在は知らずじまいだった。こんな事もあって、Location-based SNSは、リアルタイムに互いの現在地を確認できることで、思いがけない出会いや発見が益々増えてくるように思える。そして、現場の力をもっともっと活用できれば。

また訪れたいサントリーニ、次回は是非船でアクセスしたい。




3Dデジタルシティ・サントリーニ島 by UC-win/Road
「サントリーニ島」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
UC-win/Roadによる3次元VR(バーチャル・リアリティ)モデルを作成したものです。エーゲ海に臨み、赤茶けた断崖と白い雪のような街なみがコントラストをなすサントリーニ島の美しい景色を再現しました。クルーズ船が着く港から200~300mもの高さがある断崖とそこにびっしりと連なるヴォールト屋根と白壁の家々、そのなかにギリシア正教会の聖堂の青いドームが映える様子、私地と公地の境界があいまいでオープンな景観、エーゲ海に沈む美しい夕日などを表現しています。

 
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(Up&Coming '10 秋の号掲載)
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