Vol.19 

豪・ニューカッスル:地方都市の楽しみ方
 大阪大学大学院准教授 福田 知弘 

  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

  はじめに    福田知弘氏による「建築と都市のブログ」の好評連載の第19回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回はニューカッスルの3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞ、お楽しみください。
【図1】ニューカッスル駅
【図2】CAADRIA2011集合写真
【図3】Fort Scratchleyから岬を眺める

オーストラリアのニューカッスル

2008年11月にANZAScA 2008学会、2011年4月にCAADRIA2011学会出席のため、2度訪問したことのあるオーストラリアのニューカッスルを取り上げよう。ニューカッスルは、シドニーの北方約160kmにある地方都市。オーストラリアの石炭輸出港を担う港町で、人口14.8万人。ワイン産地で有名なハンターバレーも近い。ニューカッスルという都市は、文字通り「新しい城」という意味。オーストラリアの他、イギリス、アメリカ合衆国、南アフリカ共和国の4カ国にあるそうだ。

ニューカッスルへのアクセスは、シドニーから鉄道でニューカッスル駅へ(2008年に利用【図1】)、または、ゴールドコーストなどから国内線でニューカッスル空港へ。後者の場合、空港から市内までは約25km。8人乗りの乗合タクシーは、乗客の自宅やホテルまでドア・ツー・ドアで運んでくれる。乗車したタクシーでは地元のおばさま方との相席となり、ニューカッスル市内を1時間程ドライブすることになった。iPhoneのGPS機能で現在位置を確認しながら乗っていると結構遠くまでやってきた感じ。


近代建築で国際会議

ANZAScA2008、CAADRIA2011いずれの学会も会場となった、ニューカッスル市庁舎【図2】。1920年代に完成。古い建物での国際会議はやはり趣がある。セッション会場では、巨大な洋画の手前にスクリーンを置いてプレゼンテーション。前面に緑の広がるバルコニーでコーヒーブレイク。


岬と港

ニューカッスルは岬のある港湾都市。CAADRIA2011カンファレンスディナー会場となった、フォートスクラッチリーから岬を見る【図3】。岬を挟んで左側がニューカッスル港、右側がタスマン海。洋上には巨大なタンカーが沢山停泊している。これらの黒い塊をはじめて見た時は、「何やこれ?」とドキッとしたが、よく見ると入港の順番を待っている模様。

ビーチは幾つかあるが、表情がそれぞれ違っており、人々はお好みで、スイミング、サーフィン、ビーチバレー、釣りと思い思いに楽しんでいる。海のすぐそばにはプールも設けられており、プールと海とが一体化した景観。11月末は南半球では初夏なので、夕方になってもクロール、クロール(【図4】。

【図4】海沿いのプールと洋上のタンカー

ニューカッスル港からハンター川沿いには、古いレンガ工場をリノベーションした古くて新しい施設が並ぶ。レストランやジムなどは人気が高いらしい。中でも「スクラッチリーズ」は川の上に張り出したレストラン。シーフードが名物【図5】。ボリュームたっぷりで、味も申し分ないし、シドニーほど高くない。

ダービー・ストリート

ニューカッスルの目抜き通り、ダービー・ストリート。目抜き通りといってもそれほど大きなものではなく、日本の地方都市の中心部にもみられる規模。歩道に面したカフェのしつらえが何ともうまい。店への敷居が低くなるように、歩道沿いにカウンターを設けたりしてある【図6】。ついつい、店に立ち寄って、フラット・ホワイトを飲む。これまた美味い。

【図5】シーフード

【図6】Darby Streetにあるカフェ  【図7】Darby Street歩道景

歩道を計測してみると、全幅は3.5m弱、パラソルセットを除く通路幅は1.5m程【図7】。これからはリノベーションの時代。日本のメインストリートでも、こんな風に建物と歩道とが一体感のあるデザインがもっと増えるといいですね。

ストリートを歩いていると、A Cooks Hill Handbookというダービー・ストリートも含まれる、クックスヒル地区の地域密着型フリーペーパーを見つけた【図8】。コラージュもあって、中々オシャレなデザイン。お店だけでなく、地域の歴史やコミュニティの紹介もある。年に2回発行とのこと。

さぁ、まち歩き

ダービー・ストリートから半島を岬方面へ歩こう。丘を上ると、ハンター川そしてニューカッスル港が眼下に広がってくる。丘に上りながら徐々に晴れてくる風景がワクワクさせてくれる。ハンター川へダウンヒルする小径の向こうには、小型ボートに引っ張られてタンカーが港を出ていく様子が見えた【図9】。

地元の生活スタイルを垣間見るには、住宅も気になるところ。まち歩きの途中で、中古アパートのオープンハウスをしていたので、ちょっと見学。雨宿りにももってこい。生活文化の微妙な違いは本当に面白い。例えば靴を脱ぐ場所。日本のアパートメント(マンション)では玄関扉から中に入った専有部分で靴を脱ぐが、以前訪問した台湾のアパートメントでは玄関扉の手前の廊下で靴を脱いだ。ニューカッスルで訪問したアパートメントは、玄関に上り框がなく、土間と廊下の境界がわからなかった。正に「どこではきものをぬいでください?」の世界。よく見ると、室内に少し入ったところに靴箱が置いてあったので、そこで靴を脱いだ。オープンハウスで見学したアパートメントの広さは110㎡と日本では広い部類に入るが、不動産屋さんに聞けば2人向けの仕様とのこと。業務地にもビーチにも近い立地もあってか、お値段は中々。

喉が渇いたので、地元のスーパーへ。日本でもお馴染みの野菜や果物が機能的に並ぶ。生産国の表示もしっかり。許可を頂いて撮影させて頂いた【図10】。


地方都市の楽しみ方

「これ!」というわかりやすい目玉が無くて、観光客がわざわざ行かないような地方都市の楽しみ方。しっかり歩いてじっくり眺めてみるとその都市を深く知ることができるし、こぢんまりとした地方都市ほど人々の日常に短時間で出会える気がしている。

【図8】A Cooks Hill Handbook
【図9】ハンター川のタンカー
【図10】地元のスーパー

人々が長い間住み続けているのはそれなりの理由がある。地の人、地のモノ、地の情報との出会い。その都市を訪れて初めて味わうことが多ければ多いほど「行って良かった!また行きたい!!」と思えるのかもしれない。

【図11】立体的な街並み



3Dデジタルシティ・ニューカッスル by UC-win/Road
「ニューカッスル」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
今回はオーストラリアのニューカッスル(New Castle)石炭輸出港を担う港町の様子を再現。象徴的な岬、Nobbys Headlandからさらに続く防波堤の突端までランニングする市民のキャラクタを作成。シドニーから出るNorthern Lineの終着駅ニューカッスル駅の列車や、港で停泊する多くの巨大タンカーが行き交う様子を表現しました。駅から程近いハーバーでは、港を一望できるQueen's Wharf Tower周辺はカフェや賑わう人々を歩行者の群集移動で設定。また、オーストラリアの海底をPov-Rayで地面のみの霧を発生させ、深海の奥方向の青味を再現し、カメラに被写界深度を設定することにより水中のボヤケを再現したレンダリングを試みました。


CGレンダリングサービス

「UC-win/Road CGレンダリングサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細なCG画像ファイルを提供するもので、今回の3Dデジタルシティ・ニューカッスルのレンダリングにも使用されています。POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。また、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。


 
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(Up&Coming '13 新年号掲載)
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