はじめに    福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第37回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回はミャンマーの3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞ、お楽しみください。
Vol.37 

ミャンマー:横断中
大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

ヤンゴンへ

ミャンマーは、三方を山に囲まれて、南はアンダマン海やベンガル湾につながる。面積は「日本の約1.8倍」と聞いて「意外に大きな国!」と思われたのは、メルカトル図法では赤道付近が相対的に小さく描かれているせいか、それとも、中国、インドなどの大きな国と接しており相対的に小さく見えてしまっているからだろうか。人口は5,100万人を有しており、国民の平均年齢は27.9歳と若い(日本は48.4歳)。

実質30年間の鎖国状態が解け、ミャンマー政権が民主化に舵を切ったのは2012年。それ以降、安価な労働力や勤勉なミャンマー人の気質が注目され、「アジア最後のフロンティア」と称されるほど、外資系企業が流入している。日系企業も増えており、2017年現在、350社になっている。

2017年、ミャンマーに初めて訪問した。行き先は、ヤンゴン。当日のミャンマーは34℃と暑い乾季の時期であった。訪問してミャンマーが変革期であることを色々と聞いた。急激に変わろうとする姿を交えつつお伝えしよう【図1】。


【図1】 シュエダゴン・パゴダと街並み

渋滞


空港からホテルまで10kmほどだがほぼ1時間かかった。この時は、夕方のラッシュアワーと重なったので仕方ないか、と思ったが、ヤンゴン滞在中、渋滞は常に付きものであった【図2】。交通渋滞の原因は、急激な経済発展に伴い、2012年に中古車の輸入が解禁され、道路や交通システムが未整備のまま、車の数が急激に増えたためである。違法駐車の多さやラウンドアバウトの交差点も渋滞の増大に拍車をかけている。

よく見ると、ヤンゴンの道路は日本と逆の右側通行だが、右ハンドルの日本の中古車がバンバン走っている。ミャンマーで流通している自動車の9割以上は中古車であり、その多くが日本の中古車だ。日本で走っていた姿のままの車両も多く、日本語で「○×工務店」とペンキ塗りされた軽トラや、「バスカード使えます」のシールが貼られたままのバスに出会うのは珍しくない。右側通行に右ハンドルのバスが走るということは、乗車・降車ドアが歩道側ではなくセンターレーン側となり危険なため、歩道側の車両の一部が改造されて開口部が作られている【図3】。最近では右ハンドルのバスは禁止され、同じく右側通行の国、韓国製の中古バスが走るようになってきた。

【図2】大渋滞と横断者

車の登録台数は日本の1/120、人口は日本の半分以下であるが、交通事故者数は日本よりも多い。まさに交通戦争状態である。横断歩道はほとんどなく、反対側の街区に移るためには車道を横切るしかない。子供の頃、酔っぱらいが道路を横断する「クロスハイウェイ」という電子ゲームがあったが、シラフの状況でも道路を横断しないといけない。我々素人は、ゲームオーバーにならないよう、用心深く渡らなければならない。渡るタイミングは地元の人々についていくのが手っ取り早いわけだが、ミャンマーの人々の横断能力は高く、素早い。「ジモティさん、なぜそのタイミングで!?」と考えてしまうと、つい後れをとってしまい、却って危ない状況となる【図4】。

ヤンゴン中央駅に行ってみた。鉄道の車両も日本製であり、寒冷地仕様の電車なのか「ランプ点灯中 ボタンを押すとドアが開きます」と書いてある(ボタンは機能不全)。プラットフォームの高さは線路とさほど変わらず、人々は線路敷に簡単に下りることができ、まるで路面電車のように下車した乗客たちの横断が始まる【図5】。現在、ヤンゴン中央駅は、東京の「丸の内」のように玄関口として機能させる再開発プロジェクトが進められている。

【図3】車道側にある乗降ドア 【図4】赤い傘の横断者 【図5】線路敷の乗客

ダウンタウン

ヤンゴンはミャンマーの旧首都。現在のダウンタウンは、イギリス植民地時代に開発されたものであり、ヤンゴン川に面して碁盤目状に開発されている。ヤンゴン川に向かって、東西30m×南北250mの細長い短冊状の街区が連なっている。ビルは8階建て程度であり、低層階は商店が連なっており、道端の露店と併せて、歩くだけでも楽しい【図6】。上層階は住宅や事務所である。但し、街区内の道路は細く一方通行であり、さらに路上駐車が多いため、一度渋滞に捕まると、中々抜け出せない【図7】。ここから、ヤンゴン国際空港まで10マイル(16km)あり、この10マイル分がヤンゴンの都市エリアとされ、施設の位置など「何マイル目」を基準に語られることが多い。

ミャンマーの電力は7割が水力発電。雨季と乾季のあるミャンマーでは水害が多いこともあり、しばしば停電になる。蛍光灯が1年で切れてしまうのは、電圧が不安定な証拠。また、街なかの電線は大きく垂れ下がっており、鳥の重みで電柱・電線が倒れ、年間50~70名が感電死している。

【図6】仕立て屋さんのシブいミシン 【図7】お兄さんは必死にかわそうとしているが… 【図8】既に懐かしい?貸し電話屋さん

2014年には携帯電話の普及率はわずか1割であったが、2017年には95%になった。以前は、貸し電話屋が多かった【図8】。これは、店先に固定電話が置かれてあり、客が電話をかけるとオバちゃんがストップウォッチで時間を測りはじめて、電話した分だけ精算するシステムである。

ミャンマーには、日本のセンター試験のような入試制度がある。気になる若者たちの進路はといえば、最も優秀な1%の男性は軍人になり、次に優秀な1%の男性は僧侶になるそうである。日本とは大違いだが興味深い。



【図9】土曜日の仏陀

八曜日占い

ミャンマー国民の8-9割が仏教徒(上座部仏教)である。八曜日占いはミャンマーに古くから伝わる占星術であり、水曜日が午前と午後に分けて考えられている。そのため、月曜日から日曜日まで合計8つの曜日が存在し、各々、定められた方角、星座、守護神が割り当てられている。寺院に行くと、各曜日の仏陀(仏像)が並べられており、お参りすることができる。ちなみに私の誕生は、土曜日であり、守護動物は龍であった。仏像や守護神に水を5回かけて、お祈りをする【図9】。ミャンマー人の名前は、曜日に因んだ文字が頭文字とする慣習があるため、名前を見ると何曜日生まれかが、すぐにわかるのだそうだ。

シュエダゴン・パゴダは、ミャンマーの人々にとって最も神聖な場所。映画「ビルマの竪琴」でも登場した。海抜50mの丘の上に高さ100mの仏塔を中心として建造されている。境内は裸足で見学する必要があり、日中は熱くて歩きづらいとのことで、夕暮れに連れて行ってもらった。夕照に輝くパゴダの素晴らしさは格別であった【図10】。菩提樹の葉の形になぞらえたパゴダのフォルム、表面は張り巡らされた金の板、多数散りばめられたダイヤモンドやルビーなどの宝石、そのそれぞれが、そしてそれらの成す全体が見事である。何と、76カラットのダイヤモンドが塔の頂きに使用されているそうだ。境内に「ドローン禁止」の看板が掲げられていたのは、このダイヤモンドがUFOキャッチャーのようにして盗まれるのを防ぐためであろうか。

スレー・パゴダは、ダウンタウンの中心部に位置する。パゴダの周りは、ラウンドアバウトとなっており、回りの街区から歩道橋で境内にアクセスできるのが面白い。高さは48mで、足元は商店街となっている。

チャウタッジー寝釈迦仏は、生前の釈迦が寝そべっている。全長70m、高さ17mと巨大である。頭は南向き、顔は東向きである。まだ生きておられる頃の像なので、足先が揃っておらず、リラックスした感じになっている。現在の寝釈迦仏は1966年に再建されたもので、顔にはアイシャドーや長いまつ毛、赤いルージュが描かれており、何とも女性的な釈迦であった。足の裏には、108の煩悩が刻まれていた【図11】。一方、タイのワットポーがそうだが、頭が北向きで顔が西向きか頭が西向きで顔が南向きかの場合は涅槃仏(釈迦が入滅する様子を仏像として表したもの)となる。


【図10】シュエダゴン・パゴダ 【図11】チャウタッジー寝釈迦仏

急な方針転換

ヤンゴン川から5マイル付近にはヤンゴン最大の湖、インヤー湖がある【図12】。その畔に、ミャンマープラザがオープンした。ジャングルに新たに開発された、ミャンマー初の大型ショッピングモールであり、併設するオフィスの床供給量は、これまでのヤンゴン全てのオフィス床と同じといわれる。ただ、個人的には、ミャンマープラザは、どこにでも見られるようなショッピングモールであるという印象であり、何かミャンマーらしさが出せないものか、と気になった次第である。

ミャンマーは変革期真っ只中であり、急な方針転換も多い。これからどこへ向かおうとしているのか。横断先が楽しみである。


【図12】インヤー湖の日の入り

  • 車の急増に対応するため、2017年1月より右ハンドルの中古車は輸入禁止となっている。輸入許可対象は2015年以降に製造された左ハンドル車に限定された。これは、中古車価格の上昇、日本車に対する規制とも受け止められている。
  • 2016年1月に路面電車がヤンゴン湾岸線(ストランド線)として開通していたのだが、半年で運行休止になった。広島電鉄など日本の全面協力により実現したのだが、利用者が少なかったという理由だそうである。
  • 9階以上の高層ビルの建設計画に対して中断命令が出された(2017年)。対象となった計画は200件以上、内、約60件は最終的な建設許可が既に下りていた。また、約120件は建設工事に入っていた。


3Dデジタルシティ・ミャンマー by UC-win/Road
ヤンゴン」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
今回は、スーレー・パゴダとその周辺をメインに作成しました。スーレー・パゴダは、特徴的なラウンドアバウトと渋滞する交通を表現しています。また、独立記念塔のあるマハバンドゥーラ公園と、そこから見える歴史的な建造物を作成。公園に隣接した現代建築も再現し、歴史的な建造物と対照的な様子をご覧頂けます。シュエダゴン・パゴダは、ライトアップされ光り輝いている様子を表現しています。
スーレー・パゴダとラウンドアバウト 独立記念塔と旧最高裁判所
スーレー・パゴダと高層ビル シュエダゴン・パゴダの夜景

 

CGレンダリングサービス

「UC-win/Road CGサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細なCG画像ファイルを提供するもので、今回の3Dデジタルシティ・ミャンマーのレンダリングにも使用されています。POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。また、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。


画像をクリックすると大きな画像が表示されます。

前ページ インデックス 次ページ
(Up&Coming '17 春の号掲載)
戻る
Up&Coming

LOADING