|
ワークライフバランス(Work–Life Balance)
仕事(Work)と生活(Life)の調和を図り、どちらかに偏らない生き方を目指すのがワークライフバランスです。厚生労働省が推進する「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を図1に示しています。
図1
ワークライフバランスとは、仕事での成果だけでなく、自分の健康を含めた生活全体の充実を大切にする生き方でもあります。情報過多で忙しい現代社会では、一人ひとりの心と体をどうケアするかが重要なポイントになります。
これまで私は、仕事と私生活の境界が曖昧になり、気づかないうちに頑張りすぎて心も体も硬くなってしまった方を多く診てきました。その一人、30代の女性会社員の例を紹介します。
彼女は約2年前から不眠を訴え、2種類の睡眠薬でも改善しない状態が続いていました。部署異動で重要な仕事を任されたことをきっかけに、頭痛・しびれ・不眠が悪化し、出勤できないほどになり来院されました。これまでも部署異動のたびに全力で誠実に仕事に取り組んできた方で、自分では完璧主義だと思っていないものの、人からはそのように見られていると話していました。実際、母親からは「あなたは甘えない良い子だった」と言われる優等生タイプで、常に頑張ってきたそうです。
そこで森田療法をベースに、図2に示すような「ゆるめること」を提案しました。
図2
約2週間後、彼女は「自分が疲れている感覚が分かるようになった。ずいぶんと硬さがゆるんだ」と話し、頭痛やしびれは消失しました。約1か月後には職場に復帰し、睡眠薬の服用も不要に。約10か月後には「以前は全部自分が我慢すればうまくいくと思っていた」と自身の心境を振り返り、「今は仕事とほどよく付き合えている。仕事がないほうがかえって疲れる」と語り、約13か月の治療を終えました。
森田療法が示す“自然なこころのあり方”は、ワークライフバランスを支える心理的スキルと言えます。完璧を求めすぎず、「あるがまま」「これでいい」「まあ、いいか」と思えること。頑張りすぎて硬くなった心と体がゆるみ、より自然な心で生きることができるようになります。それは仕事の質を高め、より健康で幸せに生きることにつながります。
|