連載 【第32回】
ワークライフバランスを考える;「ゆる活」のすすめ

profile
関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了。マウントシナイ医科大学留学。東京慈恵会医科大学助手、帯津三敬塾クリ
ニック院長を経て現在、ピュシス統合医療クリニック院長。公益財団法人未来工学研究所研究参与、統合医療 アール研究所所長。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会登録指導医、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本医師会認定産業医。日本統合医療学会業務執行理事・認定医。日本メディカルホメオパシー学会専務理事・専門医。Institute for Mindfulness-Based Approaches認定MBSR講師。全米ヨガアライアンス認定RYT500。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『花粉症にはホメオパシーがいい』『がんという病と生きる森田療法による不安からの回復』共著。『1分で眠れる4-7-8呼吸』監修など多数。


「働き方改革」という言葉はすでに広く知られています。その根底には、ワークライフバランスの考え方があります。働き方改革では主に企業側からの視点でワークライフバランスの改善が求められていますが、ここでは一人ひとりができることについて考えてみたいと思います。

ワークライフバランス(Work–Life Balance)

 仕事(Work)と生活(Life)の調和を図り、どちらかに偏らない生き方を目指すのがワークライフバランスです。厚生労働省が推進する「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を図1に示しています。


図1

 ワークライフバランスとは、仕事での成果だけでなく、自分の健康を含めた生活全体の充実を大切にする生き方でもあります。情報過多で忙しい現代社会では、一人ひとりの心と体をどうケアするかが重要なポイントになります。

 これまで私は、仕事と私生活の境界が曖昧になり、気づかないうちに頑張りすぎて心も体も硬くなってしまった方を多く診てきました。その一人、30代の女性会社員の例を紹介します。

 彼女は約2年前から不眠を訴え、2種類の睡眠薬でも改善しない状態が続いていました。部署異動で重要な仕事を任されたことをきっかけに、頭痛・しびれ・不眠が悪化し、出勤できないほどになり来院されました。これまでも部署異動のたびに全力で誠実に仕事に取り組んできた方で、自分では完璧主義だと思っていないものの、人からはそのように見られていると話していました。実際、母親からは「あなたは甘えない良い子だった」と言われる優等生タイプで、常に頑張ってきたそうです。

 そこで森田療法をベースに、図2に示すような「ゆるめること」を提案しました。


図2

 約2週間後、彼女は「自分が疲れている感覚が分かるようになった。ずいぶんと硬さがゆるんだ」と話し、頭痛やしびれは消失しました。約1か月後には職場に復帰し、睡眠薬の服用も不要に。約10か月後には「以前は全部自分が我慢すればうまくいくと思っていた」と自身の心境を振り返り、「今は仕事とほどよく付き合えている。仕事がないほうがかえって疲れる」と語り、約13か月の治療を終えました。

 森田療法が示す“自然なこころのあり方”は、ワークライフバランスを支える心理的スキルと言えます。完璧を求めすぎず、「あるがまま」「これでいい」「まあ、いいか」と思えること。頑張りすぎて硬くなった心と体がゆるみ、より自然な心で生きることができるようになります。それは仕事の質を高め、より健康で幸せに生きることにつながります。

「ゆる活」のすすめ

 「ゆる活」とは、自分を見つめ、やさしくいたわるセルフケアです。硬くなった心と体、そしてかたい生き方そのものをゆるめていくために、統合医療は大いに役立ちます。日常で取り入れられる、食事・睡眠・運動・こころのあり方などのセルフケア情報を「ゆる活くらぶ」で発信しています。ぜひ活用してみてください。




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(Up&Coming '26 新年号掲載)
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