本連載は、「システム開発」をテーマとしたコーナーです。フォーラムエイトのシステム開発の実績にもとづいて、毎回さまざまなトピックを紹介していきます。第20回は、車両の走行軌跡と砂煙表現のシミュレーションについて解説いたします。

執筆 組込システム開発チーム

VRシステムをはじめとした関連分野における展開を推進。組込システム開発、マイコンソフトウェアの受託開発、コンサルティングを中心とした事業を展開。

車両の走行軌跡と砂煙表現のシミュレーション

■はじめに

路面舗装されていない道路や雪面での走行、あるいはアスファルト路面でも急加速・急減速でタイヤに負荷がかかる場合は、タイヤの跡が走行軌跡として地面に残ります。また、砂が露出している路面では、タイヤの回転によって砂煙が生じることもあります。タイヤと路面の自然現象をVR上に表現することは、リアリティを向上させるためにも必要不可欠です。今回は、車両の走行軌跡と砂煙表現に着目して、弊社開発の3DVRソフトウェア「UC-win/Road」にて実際に開発した事例をご紹介します。

■走行軌跡の表現手法

走行軌跡の表現は、レーシングゲームなどでも多く見かけると思います。軌跡の表現方法としては、(1)未舗装路において、タイヤの圧力により地面がめり込む量を計算して路面ポリゴンを変化させる方法、(2)タイヤが通過した路面に対してタイヤ痕や轍を表現したテクスチャを貼る方法、の2つが挙げられます。(1)は見た目を重視する場合に有効ですが、描画負荷が大きくフレームレートが下がる可能性も高くなります。したがって、今回は(2)の手法で開発を行いました。

テクスチャを貼り付けるためには、タイヤが路面に接着する範囲を把握する必要があります。タイヤの中心位置とタイヤ幅から接地面を算出し、テクスチャを貼り付ける範囲を特定します。なお、タイヤの切れ角や車両の急加速・急減速による影響も考慮して表現を行っています。

■砂煙の表現手法

砂煙の表現は、タイヤの中心位置を起点として砂煙を発生させています。UC-win/Roadには標準機能で火・煙モデルを搭載しており※1、これを使用して砂煙が生じているように見せることができます。煙モデルの色味や煙の移動速度等、詳細な設定が可能となります。

■デモンストレーション

ここで、デモンストレーションを行います。タイヤ痕が大きく残り、砂煙が舞う環境下といえば、モータースポーツを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。そこで、車両モデルにラリーカーを使用して走行しました。VRの作成、車両モデルの走行等すべてUC-win/Roadで行っています。

走行軌跡を表示した例を図1に示します。アスファルト路面のため、路面に貼り付けるテクスチャは黒系のものを使用しました。タイヤ幅に合わせて走行軌跡が作られていることが分かります。


▲図1 走行軌跡の表現例

次に、砂煙を表現した例を図2に示します。走行軌跡と同じ位置から煙を発生させ、タイヤの回転により砂が舞い上がっている表現が可能となります。


▲図2 砂煙の表現例

最後に、走行軌跡と砂煙を合わせて表現した例を図3、図4に示します。テクスチャは茶系のタイヤ跡を使用しています。砂煙と走行軌跡を合わせた方が、よりリアリティのある路面を表現可能です。


▲図3 走行軌跡と砂煙を合わせた表現例(1)

▲図4 走行軌跡と砂煙を合わせた表現例(2)

■砂煙が舞うモータースポーツといえば

走行軌跡や砂煙が舞う表現に関連して、弊社がタイトルスポンサーを務めている「FORUM8 RALLY JAPAN」(以下、ラリージャパン)をご紹介いたします。

ラリージャパンとは、世界規模でのモータースポーツであるWRC(World Rally Championship)※2の日本開催を指し、2022年11月10日-13日にかけて岐阜県・愛知県で行われます。特徴は、「あらゆる路面を駆け抜ける公道最速のモータースポーツ」であることです。サーキットが主となるF1とは異なり公道が舞台で、舗装路、未舗装路、雪道・氷道など様々な環境下で競技を行います。

そのため、未舗装路でのレースでは図5のようにダイナミックに砂煙が舞い上がる様子は、ラリーの醍醐味とも言えるのではないでしょうか。また、砂煙は見た目だけでなく、視界不良や運転席侵入などのトラブルも引き起こすため、レースに大きな影響を与えます。迫力あるWRCをぜひ日本で体験されてみてはいかがでしょうか。


▲図5 WRCの砂煙

■T3Rシミュレーターとの連携

レーシングカーの挙動をリアルに体感頂くために、T3Rシミュレーター(以下、T3R)とUC-win/Roadが連携できるよう開発を行いました。図1~図4のように、UC-win/Road上で車両モデルを運転している際の車体の速度・加速度やピッチ・ロール角をT3Rに送信し、挙動させます。T3Rはレーシングカーの挙動を忠実に再現することをコンセプトに作られたものであり、路面のうねり、振動、重力加速度を再現するものです。

UC-win/RoadとT3Rの連携の様子を図6に示します。弊社展示ルームにあるT3Rはタイトルスポンサーであるラリージャパンのロゴが刻まれている特別なデザインとなります。ラリーで起こるような走行軌跡・砂煙表現をよりリアルに体感いただくためにも、シミュレーターとの連携は必要です。ぜひ弊社展示ルームでご体験下さい。


▲図6 UC-win/RoadとT3Rシミュレーターの連携


■おわりに

今回は車両の走行軌跡・砂煙のシミュレーションを行い、T3R連携を行うまでの開発事例をご紹介しました。路面に貼り付けるテクスチャや煙は自由に変更が可能のため、今回ご紹介した土砂道だけでなく、雪道やぬかるみのある道でも適用が可能です。今後の開発にご期待下さい。

●注釈

※1 UC-win/Road製品HP https://www.forum8.co.jp/product/ucwin/road/ucwin-road-1.htm
※2 フォーラムエイトラリージャパンHP https://rally-japan.jp/


(Up&Coming '22 秋の号掲載)



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