世はまさに時代劇の時代!
(ほま)れある日本時代劇映画特集

日本のテレビではほとんど見かけなくなった時代劇ですが、海外では日本の時代劇が注目を浴びています。特に、ハリウッドに移住し活躍中の真田広之が制作・主演を努めたドラマ「SHOGUN 将軍」では、アメリカのエミー賞(2024年)とゴールデングローブ賞(2025年)で作品賞をなど数多くの賞を受賞し、アメリカのドラマ界を席巻しました。今作を機に、海外資本の投入による日本の時代劇が盛り上がっていくことでしょう。

予算の都合や時代の流れで減少の一途を辿っていますが、かつて日本映画では時代劇が主流でした。100年以上にも及ぶ日本の時代劇映画の蓄積によって、「SHOGUN 将軍」の快挙が生まれたのです。往年の名作から話題の新作まで、日本の時代劇映画をご紹介します。

名実ともに世界一の時代劇映画

「七人の侍」

最も有名な日本映画といえば、本作ではないでしょうか。誰もが名前だけは聞いたことがあると思います。世界のKUROSAWAこと黒澤明の代表作。そして本作がなければ、あの「スター・ウォーズ」も「荒野の七人」も作られなかったかもしれません。

時は戦国時代。野武士の襲撃に恐れる農村が舞台で、用心棒として7人の侍を雇うことに。侍だけでは人手が足りず、戦闘経験のない農民を訓練し、圧倒的な力量差のある野武士に立ち向かおうという話です。時代劇ですが、絶対に逆らえない権力に立ち向かう小市民という設定は、現代劇にも通底するものがあるのではないでしょうか。公開から70年以上経ちましたが、未だに後世に影響を与え続ける作品です。上映時間は3時間超え。YouTubeの動画が何十本も見られる時間です。しかし、一度で良いので本作に3時間を預けてみてはいかがでしょうか。何度見ても色褪せず、全く古さを感じさせません。それほど現代の映画に継承され続けているのです。

「七人の侍」
1954年製作 日本映画 上映時間:207分 配給:東宝

監督:黒澤明 出演:三船敏郎、志村喬、仲代達矢ほか


最も有名な武士の生き様

「宮本武蔵 一乗寺の決斗」

突然ですが、質問です。「武士」といえば、誰を思い浮かべるでしょうか。多くの人が「宮本武蔵」を思い浮かべたと思います。数々の漫画やドラマでも題材にされた宮本武蔵ですが、私が一番オススメしたいのは映画版の宮本武蔵物語です。

テレビが普及する少し前、まだ映画が全盛期の時代に作られた作品。作り手、役者、すべての資本が時代劇に投入できた時だからこそ、珠玉の宮本武蔵作品が出来上がったのです。

1961年に本作の1作目である「宮本武蔵」が公開され、今回ご紹介するのは4作目になります。剣の道に目覚め、武者修行に励む宮本武蔵。道場破りをした大量の門弟たちから復讐を受けるも一網打尽にする物語です。佐々木小次郎の登場、そしてタイトルにもある一乗寺での大決戦も見逃せません。まだスタントマンが少なかった時代、カットを割らずに役者自らが剣劇を振るいます。日本時代劇の底力を味わってください。

「宮本武蔵 一乗寺の決斗」
1964年製作 日本映画 上映時間:128分 制作:東映

監督:内田吐夢 出演:萬屋錦之助、高倉健ほか


今作なくしてSHOGUNなし

「柳生一族の陰謀」

冒頭にご紹介した「SHOGUN」の系譜となるような作品となります。何故なら、本作の主演の千葉真一の弟子として、「SHOGUN」の制作・主演を努めた真田広之も本作に出演しているからです。70年代のアクション映画(時代劇含む)において、千葉真一と真田広之の貢献は計り知れません。

突然の将軍の死にたじろぐ江戸城。次期将軍を巡り、残された家来たちの腹心は骨肉の争いと化す。そんな中、剣術指南役の柳生家も将軍の座を狙うため陰謀を張り巡らせる。いつの時代も、国のトップが交代する時は争いが起きるもの。将軍の後継者争いを基軸にしたロードムービーであり、珠玉の剣劇アクション満載。70年代の豪華キャストを揃えて挑んだ大娯楽作です。

「柳生一族の陰謀」
1978年製作 日本映画 上映時間:130分 配給:東映

監督:深作欣二 出演:松方弘樹、千葉真一、真田広之ほか


平成に刻まれるべき時代劇

「十三人の刺客(2010)」

時代劇が斜陽に差し掛かり、テレビでも時代劇を見かけなくなった2010年代のはじめに本作が公開されました。商業映画を中心に年に何本も制作をしていた三池崇史監督、当時お茶の間を沸かせた人気俳優で挑んだ本作は、予想の遥か上を行く大傑作でした。

1963年の同名作品をリメイクし、「七人の侍」と同じく集団抗争時代劇のジャンル。タイトルにもある通り十三人の武士たちを、テレビで見ない日がない豪華な役者たちが演じます。俳優のイメージとは対極にあるような役どころが印象的で、未だに稲垣吾郎のあのシーンは忘れられません。様々なタブーを解禁し、観客があっと驚くものを提供してくれました。作品の数・質ともに昭和中期に作られたものが時代劇の代表となり得ますが、慣れ親しんだ現在の俳優が見せる時代劇こそ格別です。もう一度言いますが、稲垣吾郎が本当に凄まじかった…。

「十三人の刺客(2010)」
2010年製作 日本映画 上映時間:141分 配給:東宝

監督:三池崇史出演:役所広司、山田孝之、伊勢谷友介、稲垣吾郎ほか


人生を賭けた真剣勝負

「侍タイムスリッパー」

2024年、東京の一館のミニシアターのみで公開された本作。口コミで話題が広まり、全国300館以上での公開。その年の日本アカデミー賞で最優秀作品賞を獲得した作品です。米農家を兼業している安田淳一監督は、本作のために私財を投じて自主制作。助監督までも主要キャストに起用した非常にローカルな作品です。この作品が後に日本映画を席巻するなんて、一体誰が想像できたでしょうか。ちなみに、現在は海外の劇場でも公開されています。

幕末の侍が現代の京都にまさかのタイムスリップ。奇跡的に京都の時代劇撮影所にワープし、切られ役で生計を立てながら幕末に戻る方法を模索する日々。そんな中、タイムスリップ直前に戦った侍に酷似したベテラン俳優と共演することになり…。コメディがメインですが、監督の制作背景と主人公の境遇が重なり、涙なしでは見られない作品です。

「侍タイムスリッパー」
2024年製作 日本映画 上映時間:131分 配給:ギャガ

未来映画社 監督:安田淳一 出演:山口馬木也、沙倉ゆうのほか


『侍タイムスリッパー』
Blu-ray:¥5,500(税込) DVD:¥4,400(税込)
発売中 発売・販売元:ギャガ ©2024未来映画社

(Up&Coming '25 秋の号掲載)