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前回は、教育システムの相違について、不確定要素が組み込まれた米国・融通の効かない日本の比較と、オランダでの建築系学会のエピソードを紹介しました。今回は、楢原氏がニューヨークの組織系設計事務所に勤務していた時代の回想と、訪れた転機について綴っています。

■著者プロフィール
楢原太郎氏(ニュージャージー工科大学 建築デザイン学部 准教授)は、米国マサチューセッツ工科大学、ハーバード大学で学び、現在はニュージャージー工科大学で教鞭を執られています。大学教育の現状やコンピュータ、デザインなどの専門分野の動向などを現地からレポートいただく企画です。

Vol.6 アッパーイーストサイドの奇跡:転機

1997年・夏・ニューヨーク・ワシントンパーク、意識が朦朧とする猛暑の中、私はささやかでも良いが寝床となるアパートを探してこの街をさまよい、気付けば公園の中で独り途方に暮れていた。その時ふらふらと何かが視界を遮ったが私の理性がそれを肯定するまでに数秒を要した。眼前で日中から素っ裸の黒人のホームレスが直接、屑篭の中にだらーんと伸びた規格外のペニスを垂らして放尿を始めた。じょっーじょっーといつ果てるとも知れず続く放尿を眺めていると次第に気が遠のいて行った。

渡米前、ニューヨークは人種の坩堝でパワーに満ち、誰にでもチャンスが溢れるアメリカンドリームの街と散々美談を聞かされて来たが、私の体験したニューヨークはそれらの輝かしいイメージとは異質であった。数々の輩が自分は別格だと信じてこの街にやって来るが、実際は一部の基本性能の高い人間か、コミュニケーション能力に長けた者以外は、片言の英語でこの街の混沌とした資本主義社会の掟に呑まれ、行く末は得体が知れない社会の底辺の掃き溜めで燻り廃人の様になって野垂れ死んで行く人間も多い。輝かしい成功者と目を背けたくなる様な敗者が表裏一体に混在していて、私の場合、一流大手設計組織事務所に何とか滑り込んだは良いが、意外な程に日本以上に学歴コネ偏重の社会の洗礼を受け辟易としていた。更にNYCの住宅事情は最悪で、黄色人種、コネなし、低収入、クレジットカードのヒストリーの一切無しの私を受け入れる物件は何処にも無く、友人宅の居候もそろそろ限界を超えていた頃であった。

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■最近新たな観光名所として注目されている、高架貨物線跡を空中緑道として再利用したハイライン。

マンハッタン島を南端から北上しながら散策して歩いて行くと分かるが、今でこそ観光地化して高級ブランドのブティックが軒を連ねているソーホー(SoHo)辺りも、ほんの一昔前まではゴーストタウンと呼ばれる荒廃した倉庫街で、路上に堆く積まれたゴミ袋の山から妙に生白い二本の足が覗いている様な事も日常茶飯事だったらしい。無造作に平気で路上に人間が捨てられている様な街だったという訳だ。現況の輝かしい反面、そんな殺伐とした側面が表裏一体で見え隠れしている街、それがニューヨークだ。紙一重で何処で均衡が崩れて後戻りするか、911の同時多発テロもそんな危うさが垣間見えた一瞬だった。この一帯の不動産価値に早くから目を付けて移り住んで来たアーティスト達が当時ただ同然で購入した物件が高騰し、現在悠々自適に暮らす彼等によって不動産管理された土地は、他の杓子定規に管理された土地と違って本場のヨーロッパとも一味違う独特の魅力を有しているのも事実だ。

更にソーホーからウエストサイドに回りハドソン川を観ながら、最近新たな観光名所として注目されている以前は赤錆だらけだった、高架貨物線跡を空中緑道として再利用したハイラインを通って北上を続けると、ゲイの聖地と化しているチェルシーに出る。何も知らずに入ったダイナーでプロレスラーの様な筋骨隆々なおっさん二人が向き合って座りながらお互いの腕をナデナデ摩り合いながら隣で静かに語り合っているのに気付くと、右も左も超合金の様な作った様な筋肉をピチピチの皮ジャンで包んだお兄さん達に囲まれていた。良く見ると時々クネクネしたアジア系の連中も混じっていて、貴方がゲイなら天国に映るのかも知れないが一般平均的な趣向しか持たない私の様な凡人には少々刺激が強烈過ぎるイニシエーションであった。

ゲイ・ストリートから一歩出るとチェルシーのギャラリー街に出る。元はアイルランド系移民の港湾労働者の町で、埠頭や倉庫を改築して現在では最新のアートスペースが生まれている。代表的な物としてはMary BooneやGagosian Galleryがあり、これらは私が嘗て師事した建築家Richard Gluckmanによる物だ。NYの組織事務所勤務時代、日本の一流企業から出向して一緒に働いていた同僚から「地味だが超良い建築家のレクチャーがあるから行こうぜ」と言われ、会社をサボって見に行ったのがGluckmanとの最初の出会いだった。講義の最後で彼が「今度東京で美術館の設計をやるかも知れない」と仄めかした時、同僚が耳元で「ここで話しかけなきゃ一生後悔するぜ」と発破を掛けられてその場で採用を直訴した。コネが無ければ型破りな直球勝負が通用するのが米国の良い所だ。だがその場では履歴書を送る様に言われて終わった。

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■新旧様々な建築物の中を空中歩道を通って歩ける。
 手前にフランクゲーリーとジャンヌーベルの新作が見える。

NYCに居た7-8年間に何故か10回程引越しをする羽目になった。当時はソーホー、イーストビレッジ、ロワーイーストサイド等がヒップな若者の住むクールなエリアだったが、南の端から歩き回った果てに私は一気に北上してグッゲンハイムやメトロポリタン美術館に歩いて行けるアッパーイーストサイドに住みたいと言う野望を持った。このエリアはリベラルな若年層からはダサいとされ、保守的な富裕層や有閑マダム専用のエリアなのだが案の定、応募するアパート全て断られ続けた。不動産ブローカーから派遣されて来るおねーさんに連れられて仕事の合間を縫って物件を見に行くのだが、給料が足りないとか理由を付けられて必ず撥ねられ、最後は遂に仕事からの睡眠不足と住処の無いプレッシャーからキレそうになったが「あんたにピッタリの物件が見付かったよ、今回は審査も要らないから」と言われて見に行くとそれは部屋と言うよりは通路で、廊下に沿ってキッチンやトイレが詰め込まれ、そのままの幅で奥は窓で終わっていた。狭すぎて棚の上から何か落ちると連鎖反応でドサドサ物が落ちて来る様な部屋だったが、月500ドルと言う格安家賃に背に腹は変えられず、私のNY生活が何とか始まった。


転機

「タロー凄い超能力者がいるからお前も会って来い!」男女関係の縺れから少々狂ってしまっていた友人から久しぶりに連絡があり或る電話番号を渡された。実は当時、狂っていたのは私の方でもあり、張切って入社した一流組織事務所では上司とぶつかり所内で怒鳴り合いの喧嘩を何度もしていたので、しょっちゅう会社の若い娘に手を出すこの上司も含めてダイナミック・コンビとしてキ印扱いされていた。問題だらけの上司だったがアイビーリーグ出身の候補者を皆断り何処の馬の骨とも知れぬ私を雇ったのも彼だった。彼も有名校出身では無く、お互いデザインではハーバード出身より俺らが上だと言う妙な連帯意識を持っていたのだが、しょっちゅう女と何処かへ行ってしまうので理不尽に私の仕事の負担が増え既に修復不能な関係となっていた。超能力者の話に戻るが、連絡を取って会いに行くと案外平凡なNYのマンションの一室に普通の若い女性が座っていた。強いて言うなら彼女が常に私の頭上数センチ辺りを焦点の定まらない目で見ている事と、私が最初近くに座り過ぎたのか離れた所定の位置に座り直させられたのが少し変わっていた。「転職できるかな?彼女できますかね?」と私が聞くと「あー、山が見える、山が見える」どうやら此方の質問に対して回答すると言うスタイルでは無いらしい。その後、頻りに余りピンと来ない地名、人名、社名を憑かれた様に書き殴った後で「あなたは山男か何かですか」と山には異常な拘りを見せ続けこのセッションは終わった。

■デルフトにあるテオ・ヤンセンのアトリエ。コンテナを使った作業場の中も一般開放もしている。

それから状況は更に悪化し、女たらしの上司の下で残業は続き日中はインターンのモデルみたいなおねーさん達にCADを教える毎日でこのままでは建築家には成れんと、一念発起して将来の予定は何も無かったが取り合えず辞める事にした。但し余っていた有給休暇だけは全て採ってから辞表を叩き付ける事にした。いよいよ休暇を目前にした金曜日、次の就職先も決まって無く就労ビザが切れると国外追放になるし、帰国後の予定もなし、自分の置かれた窮地に改めてビビり始めていた。実質最終日の午後5時、私の電話が鳴った「東京の美術館の仕事が本格始動するからあんたうちに来ないか」Gluckmanからの採用通知であった。それまでの緊張の糸が一気に切れて思わずオフィスの床に大の字になって笑い出してしまった。モデルねーちゃん達がタローが遂に狂ったかと思って心配してやって来たが理由が分かると皆祝福してくれた。

クスコは想像以上に高地で気圧が低かった。最終休暇を使ってガイドブック片手に何も計画せずにやって来たペルーだったが常に頭痛に悩まされた。麓の町アグアスカリエンテスからマチュピチュに登り、その後もコンドルが跳んでるコルカ渓谷、チチカカ湖から島に渡り登りに登ってアンデス山脈を拝んだ。旅行も中盤に差し掛かった頃、ふとマテ茶を飲みながらある認識に思い至って唖然とさせられた。「山が見えた!山が見えた!山だらけではないか!」

その後その超能力者にまた電話してみたが番号は既に通じず、二度と再び彼女に会える事は無かった。彼女もまたニューヨークという混沌とした闇の中に姿を消してしまったのだろうか。

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■ハイラインの再開発の設計はフィールド・オペレーションズとディラー・スコフィディオ+ レンフロによるもの。



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