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新版・地盤
FEM解析入門
新規企画として、地盤FEM 解析エンジニアリングのための入門講座を始めます。本講座は、地盤FEM 解析の理論背景を理解すること、その上で、地盤FEM 解析ソフトウェアを正しく使いこなすことを目的に、理論と事例を交えながら説明を行い、実務に応用できる実践的な講座を目指しています。
 はじめに

本号から、地盤FEM 解析エンジニアリングのための入門講座を12回に分けて行います。本講座は、この9月に発刊予定の「新版・地盤FEM 解析入門」の章立てに則して、その講座内容を要約して紹介したいと考えています。表1に、本書の目次と講座内容を紹介します。なお、本講座では、静的な条件下での地盤の応力〜変形解析を行う汎用FEM 解析プログラム「弾塑性地盤解析(GeoFEAS)」をメインプログラムと位置づけています。

今回は、第1回目ということですので、本書の目的、地盤FEM 解析の現状と必要性、そして、FEM 解析に内在する問題点などについて説明し、本書の位置づけをご理解頂きたいと思います。

図01 GeoFEASメインウィンドウ 図02 GeoFEASポスト表示

目次 主な講座内容
1 地盤工学におけるFEM解析 地盤FEM 解析の必要性(性能設計の照査手法として有効)、地盤FEM 解析の体系、適用範囲
2 地盤FEM解析の基礎理論 力学の基礎、平面ひずみ問題と軸対称問題、有限要素法の基礎
3 地盤FEM解析のためのモデリング 解析目的の明確化、解析手法の選定、解析領域の大きさ、境界条件
4 構成則 応力不変量、等方弾性則・積層弾性則、非線形弾性モデル、弾完全塑性モデル、弾完全塑性モデルと非線形弾性モデルとの比較
5 材料パラメータの決め方 弾性モデル、弾完全塑性モデル、破壊接近度法、弾塑性構成則のパラメータの設定方法
6 土と構造物との相合作用 構造物のモデル化、ジョイント要素
7 非線形解析 増分法、Newton-Raphson 法、繰り返し計算における収束条件
8 せん断強度低減法 せん断強度低減法の説明と応用例紹介
9 液状化に伴う自重による変形解析 解析手法、液状化材料及び非液状化材料のパラメータについて、柔構造樋門の設計との連動機能
10 地盤FEM 解析事例 プログラム入力準備段階として入力条件設定方法、解析後の評価段階としての結果の見方について
11 GeoFEAS2Dの操作方法 近接施工解析、せん断強度低減法などのデータ作成手順
表1 本書の目次と講座内容


 本書の目的

近頃では、駅構内や通勤電車で人々が、まるで神主が笏(しゃく)を持つような姿で、情報端末を手に持ち目を落とす光景を見かけます。混雑しているときやすれ違いざまに、相手にぶつかったり情報端末を落としてしまわないかと冷や冷やすることも多いのではないでしょうか。情報化社会において情報の検索、通信、様々な商取引、ニュースや動画の配信など多様な目的にパソコン、スマートフォン、携帯電話などが用いられています。その便利さの中で、建設分野においても調査、設計、施工のいずれにおいても情報化の恩恵を受けています。

本書は建設分野の情報化として、地盤解析に焦点をあてて、背景となる理論や方法について解説し、ソフトウェアの入力から出力までわかりやすく手順を追って、読者が自ら学べるように手引きとして用意したものです。したがって、本書の目的としては大きく2点が挙げられます。

  1. 地盤解析の理論背景を理解する
  2. 地盤解析ソフトウェアを正しく操作できる

第1点目は、ソフトウェアが独り歩きしてブラックボックスとなることを防ぎ、ソフトウェアの計算手順と入力から出力までの流れをわかりやすく解説することで、地盤解析の理論背景や方法論の原理原則への理解を深めてもらうことです。

第2点目は、地盤解析を対象に解析方法を手順どおりに実行するソフトウェアを簡便に利用できるようにすることで地盤解析の方法を広く多くの方々へ理解して頂くことです。


 地盤FEM解析の現状

工学についても情報化についても基本的な土台は数学です。地盤解析も工学分野の一部分として数学、特に数値処理により諸問題を解法するため応用数学を土台にした解析手法を構築しています。理論解として答えが導き出されていないような問題に対して、物理的な法則や原理を数学モデルで記述して、数値解法により答えを導く。地盤解析は土の性質や構造物の特性を数学モデルで記述し、固体力学で記述される微分方式を有限要素法(FEM:Finite Element Method) により数値的に解法します。

そうした数値解法による手法はプログラムに組み込まれなければ実際には利用できません。ところが、プログラム化すると入力値とモデルの設定が同じであれば、複雑な理論背景を自分の知識として完全に習得しなくとも、誰でも等しい結果出力を得ることが容易にできてしまいます。このように、十分な知識なしで誰でも機械的にマニュアルに従って入力すれば等しく答えを得ることができますが、地盤解析のソフトウェアを正しく用いるためには、実のところ地盤工学における知識や判断、そして、プログラムを使いこなす術が必要となります。

従来、地盤解析を行う人は、研究機関や大学などの研究目的が多く、理論的な背景に知識があり自らプログラムを開発する場合もめずらしくありませんでした。現在のように廉価な市販プログラムが流通していなかったこともありますが、プログラム化の目的は、解析結果よりも解析理論や手法を研究対象とするために必要であったとも考えられます。しかしながら、性能設計など変位量や曲率を求め、規定する性能以内であれば許容するような設計法が主流を占める昨今では、実務設計でもFEM に基づく地盤解析を取り入れられるようになってきています。

代表的な例としては河川構造物の耐震性能照査があります。堤防に設置される排水あるいは取水用の樋管について堤防の液状化による地盤変形解析を行い、樋管が耐震性能を満足するかどうかを照査することが行われています。そうした耐震性能照査を既存の構造物の安全性調査や新設の樋管を設計する上で日常的に広く業務が行われています。

図03 柔構造樋門の設計メイン画面 図04 FEM解析による地盤変形解析
(沈下・水平変位分布)


 地盤FEM解析の必要性

従来の設計法は、経験則に基づくことも多く、前提条件が限定されている、あるいはモデルを単純化しなければ解けないなどの制限が多くありました。それに対して、地盤FEM解析は、変化のある地形条件、特殊な土質条件などを実際の現場に即して地盤を弾性体あるいは弾塑性体などの連続体力学に基づく数学モデルで作成し、境界条件を定めることで解を得ることができます。つまり、従来では答えの出せないような問題や予測できな変形量などに対して、地盤工学の理論をもとに答えを得ることができるようになりました。入力値の精度が高まり理論的なモデルに信頼性があれば、おのずと解析解もまた精度が高く信頼性のある答えとなるものと予想されます。

そうした信頼性のある予測手法や評価方法は、レベル2地震動のような確率的には低く規模が大きい地震に対する許容と、頻繁な発生はあるが規模の小さな地震に対する許容を区別する考え方、すなわち性能規定を定めることにより、両者の組み合わせで合理的でありかつ経済性を考慮した性能設計として実務に用いられています。このことは、従来の予測手法が限定されているために予測結果にばらつきや信頼性の問題があったために、安全率としてある程度の余裕幅をもたせて経験的に安全性が確保されているとしていたあいまいな評価方法から、精度高い予測にもとづく経済設計を目指す評価方法に移行していることを意味します。ここに、地盤FEM解析の必要性があると考えられます。

性能設計の利点は、最新の研究成果や開発結果を取り込み技術の更新を容易に取り込めること、そして、それらを勘案した合理的な設計により経済性を追求できることが挙げられますが、ここにも、地盤FEM解析の必要性があると考えられます。

図05 FEM解析による斜面安定問題 図06 FEM解析による地盤変形解析
(沈下・水平変位分布)


 地盤解析ソフトウェア使用にひそむ危険性

以上のように、地盤FEM解析のソフトウェアは、性能設計の土台となる精度の高い予測手法をプログラムに組むことでパソコンを用いて容易に実施することができるようになりました。様々な地盤工学や連続体力学の理論を組織的に組み立てて、必ずしも理論の詳細に習熟しないものでも利用できるため、特別な研究者でなくとも、一般の実務者が地盤解析ソフトウェアを使うことで、実務に性能設計を取り入れることが可能になっています。

それでは、理解が不足している状態で、地盤FEM解析のプログラムを用いて設計を行うとどのような問題が生じるかについて検討してみたいと思います。

一般の設計計算プログラムと同様に、入力値の取り違い、入力ミスや出力値の評価を誤ることが当然のことながら考えられます。

しかし、数値解析では、入力間違いなのかどうかもわからずにプログラムが途中で止まるケースや、解析が異常な結果となって終了するケースも考えられます。

具体的には、弾塑性理論にもとづく解析を実施する場合は強度定数として粘着力C と内部摩擦角φによって破壊規準線を設定します。破壊規準に達した応力状態になると塑性状態として非線形の収束計算を行うことになります。しかし、強度があまりにも低く設定しているために、地盤の安全率の状態が1を下回る場合は、それ以上の計算を中断することがあります。そのような場合にパソコンの画面上ではフリーズした状態で動作しなくなる、あるいは異常な変形が出力して終了するなど原因不明な場合があります。実務者によっては設計指針に書かれているとおりに解析しなければならないという前提から、解析できるはずだと思い込む場合もあります。
また、既存の設計で支持力に対する安定計算に用いた強度定数であるという理由で、それを使わないといけないとし、設計用の粘着力と内部摩擦角に固執して、有効応力法に基づく地盤解析に低い値を設定するなどで、解析モデルとしては不適切な場合も考えられます。

このように、地盤FEM解析に関する理解不足、正しい知識の習得がなされない状態では、プログラムがブラックボックス化してしまい、解析結果をそのまま鵜呑みにせざるを得ないことは、非常に、問題であると考えられます。


 今後の講座

このような状態を少しでも改善できるように、本書、並びに、本講座が地盤FEM 解析エンジニアリングのための入門書として利活用して頂ける様に、心がけてまりいたいと思います。

次回は、地盤FEM解析の体系、適用範囲、解析種類(事前解析、情報解析、事後解析)などを通じて、地盤FEM 解析の全体像を説明したいと考えています。ご期待下さい。

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