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Users Report   ユーザ紹介/第92回
 東北ユーザ特集巻頭インタビュー
東北大学大学院工学研究科  附属災害制御研究センター教授(津波工学分野)
今村 文彦 氏

1100年前の津波をシミュレーション  現代の減災にどう生かすか


 研究室 Information
 東北大学大学院 工学研究科 附属災害制御研究センター津波研究室
   URL● http://www.tsunami.civil.tohoku.ac.jp/hokusai3/J/index.html
   所在地● 仙台市青葉区
   研究内容● 地球科学,減災工学,人間行動,災害情報・リモートセンシング技術など


東日本大震災で発生した巨大津波は、東北地方の沿岸部に大きな被害をもたらしました。“想定外”とも言われる今回の津波ですが、東北大学の今村文彦教授はこの津波の到来可能性を予想していました。過去の大津波が地盤中に残した津波堆積(たいせき)物を調査し、東北地方の内陸深くまで到達した津波が何回もあったことを突き止めていたのです。フォーラムエイトのアドバイザーとして津波解析支援サービスへの技術指導などを行っている今村教授に研究内容や東日本大震災で得た津波防災の課題について独占インタビューを行いました。(聞き手は建設IT ジャーナリスト、家入龍太)


──今村先生の津波工学研究室の研究内容について教えてください。

今村 津波工学研究室は、工学的な立場から津波を研究する研究機関としては世界唯一のものです。災害対策や制御の理念に基づいて、 国内外の現地調査研究や高精度津波数値予測システムの開発、地域の津波災害対策支援を主とした研究を行っています。

特に、津波の解析技術は津波被害が予想される国々に対する国際的な技術移転の対象となっており、TIME(TsunamiInundation Modeling Exchange)プロジェクトはその中核として位置づけられています。今村研究室が開発した津波解析コードは、これまで世界24カ国、48機関以上に技術移転され、津波災害の軽減に役立っています。

 
▲東北大学大学院工学研究科附属災害制御研究センター教授
今村文彦氏。 津波工学研究室にて
  ▲津波工学研究室のある建物


──津波防災の道を志されたのはいつですか。

今村 忘れもしません。1983 年5 月26日に秋田県沖で発生した日本海中部地震が、津波防災の研究に進むきっかけでした。当時、私は東北大学工学部土木工学科の学生で、測量機器をもって約2 週間にわたり、地震津波の被害調査チームの一員として調査を行いました。

この地震で、日本海沿岸の男鹿市や能代市などで約100 人が津波で亡くなりました。この中には、海岸を訪れていた小学生の児童も十数人も含まれていました。このとき、各地の津波被害が家庭用ビデオカメラで撮影され、ショッキングな映像がテレビで多数、報道されました。

“海なし県”と言われる山梨県で育った私には、海についての知識はあまりありませんでした。津波の被害に間近に接して衝撃を受けた私は、それ以降、津波防災の研究に進みたいと思うようになりました。


──今村研究室が開発した津波解析プログラム用のコードは、世界最先端の性能を持っていると評価されており、フォーラムエイトの津波解析支援サービスでもリアルタイムバーチャルリアリティシステム「UC-win/Road」と連携して使われています。どんなプログラムなのでしょうか。

今村 海底を震源とする地震が発生したとき、海底地盤が隆起や沈降を起こします。この地盤変動によって海面が上下に変動するのが津波発生のメカニズムです。

津波は地球の裏側にあるチリ沖で起こったものが太平洋を伝わり、日本に被害をもたらすなど、非常に広域な場所を移動するものです。南半球から北半球まで、1 万8000 キロメートルも伝わることがある。そしてスピードも時速数百キロメートルと非常に速いのが特徴です。

今村研究室の津波解析コードは、高速で広域を移動する津波をリアルタイムで解析するために開発されました。浅水理論の差分法を用いたものです。入力条件としては、マグニチュードや震源深さ・位置といった震源情報と海底地形データ(標高高さ、位置)、地形情報等です。

これだけ広範囲を移動する間に、地球も自転しますので、津波の波形やエネルギー、進行方向などの解析には自転の影響も考慮する必要があります。そこで津波解析コードには、自転の影響を表す「コリオリの力」も考慮したものになっています。それから、一般の人にはあまりなじみがないと思いますが「波数分散性」という考えも取り入れて、より高精度の予測ができるように工夫しています。しかもこの時、通常除去すべき数値誤差を逆利用し、波数分散性を取り入れることが出来ました。


──今回の東日本大震災の津波被害は“想定外”と言われましたが、今村先生のお考えはどうでしょうか。

今村 津波被害の学術的な記録としては100 年そこそこの期間しか残っていませんが、その期間を大幅に超える500 年間隔とか1000 年間隔とかで大きな津波が発生していることが、古文書などからもうかがえます。

そこで今村研究室では、国内外の内陸部で地盤のボーリング調査を行い、津波によって海から運ばれてきた海砂や貝殻ど「津波堆積物」と呼ばれる地層の分布を調べる研究を行っています。津波堆積物の地層ができたと推定される時代の古文書も参照して、具体的な年や被害状況を推定します。

この調査によって約1100 年前の869年(貞観11 年)に宮城県・仙台平野を襲った貞観津波は、現在の海岸線から約5 キロメートル内陸まで津波が到達したことが分かりました。

東北地方でも太平洋岸から3〜4km の地点まで津波堆積物が確認されていますので、過去にも今回のように内陸深くまで津波が押し寄せたことがあることを実証しています。

津波堆積物の地盤調査や古文書による調査は「点」としての結果ですが、津波シミュレーションと組み合わせることで、その津波が発生したメカニズムや、津波が海岸に到達したときの流速や破壊力、浸水地域の分布などを推定することができます。
仙台平野での貞観津波の堆積物層(資料:今村文彦氏)

 
▲2011 年チリ津波の伝播の様子(資料:今村文彦氏)


──その研究成果は、今回の東日本大震災では役に立ったのでしょうか。

今村 1000 年に一度の津波と聞いてもピンと来ない人も多いと思います。そこで津波のシミュレーション結果を動画にして、津波の状況を視覚化することにより、一般の人でも理解しやすくなります。

去年の10 月、今回の津波で大きな被害を受けた仙台市の若林地区ではこのシミュレーション動画を使って津波防災の講演会を開きました。地元住民の方や警察、自衛隊の方など約300 人が参加しました。津波が現在の街を襲ったらどうなるのかをシミュレーションで見た人々は、高台に逃げる必要性を認識し、若林地区では仙台東部道路が数少ない高台であることを認識しました。今回の地震ではち早く、仙台東部道路を目指して避難し、実際に助かった人が200 人くらいいたと聞いています。このうち、何人が講演会に参加していたのかは分かりませんが、津波の被害を軽減することに役立ったと信じています。


──今村先生の研究室では避難シミュレーションの研究もされているとのことです。フォーラムエイトでは「EXODUS」という避難シミュレーションソフトを発売していますが、津波の避難解析では、どのように活用できそうでしょうか。

今村 研究室では人間の行動に関する分野としては、津波発生時の人々の避難行動を予測する避難シミュレーションの研究も行っています。火災時の避難シミュレーションでは、火災による火や煙を見た人間がどう反応して避難していくかを解析しますが、津波は見えた段階で避難しても遅すぎます。そこで、津波警報などの情報に接した人間がどのように行動するかという行動を分析することになります。

いつ、どこに避難を始めるかという行動に大きな影響を及ぼすのがその人の記憶や経験です。例えば「津波警報が出たら裏山の避難場所に逃げてください」という指示が出たとき、その避難場所までの距離や時間に対する認識は、人によってまちまちなのです。避難所までの通り道をよく知っている人は「近い」と感じるし、あまり知らない人は「遠い」と感じる傾向があります。こうした人々の行動を「認知心理学」の手法で研究しています。

定量的に測量して作成した地図に比べると、人々の頭の中にある地図は距離や方向に「ゆがみ」があります。それを調べる簡単な方法が「認知マップ」というものです。白地図の上に避難所までの地図を描いてもらうだけの方法ですが、人によって方向や距離感が大きく違うことがよくわかります。

つまり、津波警報を聞いてから避難を始めるまでの時間や経路は、人々の記憶や経験によって変わってきます。その時間差で助かるかどうかが分かれてしまう場合もあります。その判断基準をEXODUS に入力することで、津波による避難シミュレーションの解析も可能になるのではないでしょうか。


──東日本大震災によって今村先生が感じられた教訓や課題などはどんなことがありましたか。

今村 今回の津波では、あらゆるものが漂流物となって流れました。漂流物の規模と内容は、これまでの津波では考えられないものばかりでした。その代表例がクルマです。以前は漂流物と言えば船くらいだったのが、今回の津波では膨大な数のクルマが流され、建物に突っ込んだり、ガラスを割ったりといった被害が発生しました。海岸沿いの防風林も数多くが流出し、がれきとなって内陸まで運ばれたことも例のないことでした。

また、今回は地震動、津波、地盤の液状化といったことが同時に起こった複合災害であったことです。構造物の種類によって、これらの外力を考慮した設計が行われていますが、どれか一つだけを考慮したものはあっても、これらが組み合わさった外力としては考えられていなかったと思います。

そのため、液状化や地震動で基礎が弱った構造物に津波が襲いかかり、建物全体が転倒したり、防波堤が破壊されたりした例も多かったのではないでしょうか。

▲女川町内での被害状況。
コンクリート建物が津波で倒壊(写真:今村文彦氏)
▲気仙沼市内での被害状況。
船舶が市街地に浸入した(写真:今村文彦氏)


──今後の研究の方向性などについてお聞かせください。

今村 今回の東日本大震災は、地震や津波の専門家が100% 知識を投入したにもかかわらず、“想定外”のことがいろいろと起こってしまいました。これは1分野の専門家だけの力では対処することは難しく、地質や地球史、歴史などの専門家が協力して対処していくことが必要だと思います。

今村研究室は、開発中の次世代スーパーコンピューター「京(けい)」の開発にも、メンバーとして参加しています。フォーラムエイトでは、京を使ったスパコンクラウドサービスの提供を予定しています。今村研究室では、フォーラムエイトと協働して津波解析コードのスパコンクラウドサービス上での公開や、スパコンに合わせた並列処理への対応にも、前向きに協力していきたいと考えています。

また、津波は海を伝わって各国に被害をもたらすので、津波防災には国際的な連携や協力が欠かせません。そこで国際津波防災技術の開発や移転についての活動も引き続き行っていきたいと思います。


──最後に、今村先生の現在の夢はなんでしょうか。

今村 一日も早く、東日本大震災で被災した地域が復興することです。

──どうもありがとうございました。

(取材/執筆●家入 龍太)

今村 文彦(いまむら・ふみひこ)

1961年山梨県生まれ。東北大学大学院工学研究科附属災害制御研究センター教授。災害科学や津波の流体波動数値計算、国内外の歴史地震津波痕跡調査、避難シミュレーション、避難時の記憶と人間行動を分析する認知心理学など、津波防災にかかわる研究に取り組んでいる。国際津波防災技術開発と移転、フラクタル幾何学など、流雪溝(2 相流体)などの研究にも従事。フォーラムエイトのアドバイザーとして、津波解析支援サービスなどへの技術指導や協力を行っている。

     ●今村文彦氏 略歴
【学歴】 1961 年 山梨県生まれ
1984 年 東北大学工学部土木工学科卒業
1986 年 東北大学大学院工学研究科博士 前期修了 土木工学専攻
1989 年 東北大学大学院工学研究科博士 後期修了 土木工学専攻
【職歴】 1989 年 東北大学工学部土木工学科助手
1991 年 東北大学工学部災害制御研究 センター講師
1992 年 東北大学工学部災害制御研究 センター助教授
1993 年 アジア工科大学院助教授(2 年間)
1997 年 京都大学防災研究所巨大災害 研究センター客員助教授(併任、3 年間)
1998 年 東北大学大学院工学研究科附属 災害制御研究センター助教授
2000 年 海洋科学技術研究センター 客員研究員
2000 年 東北大学大学院工学研究科 附属災害制御研究センター教授
【研究テーマ】 ・災害科学
・ 流体波動数値計算(津波などを対象)
・ 国際津波防災技術開発および移転
・ 歴史地震津波痕跡調査(国内外)
・ 地形・かたち(フラクタル幾何学など)
・ 流雪溝(2 相流体)
・ 避難シミュレーション・ 認知心理学


     
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