秋田県 男鹿市
秋田県男鹿市は、フォーラムエイトのメタバニアF8VPSによるWebVR/AR(仮想現実/拡張現実)ソリューション技術を導入。2022年度には観光資源の事前体験や現地体験を供する「寒風山ジオサイトVR/AR」を、2023年度には伝説を直感的に体験できる「赤神神社五社堂AR」を、それぞれ構築して運用を開始。以降も引き続き、新たなWebVR/AR適用の構想が進められています。
男鹿市(男鹿半島)は、その北方との経済的・文化的交流の歴史は古く、北海道の縄文遺跡で発掘された土器にも痕跡を辿ることが出来、7世紀末から10世紀初頭まで栄えた渤海からの使者が何度も訪れているほか、中世の蝦夷や千島などとの交易、北前船の寄港地としてなど、海運を通じ重要な役割を果たしてきた経緯があります。
また当地を語る上で欠かせないアイテムが「男鹿のナマハゲ」。1978年に国の重要無形民俗文化財に、2018年にはユネスコ無形文化遺産に登録されています。菅原市長は、景勝地や食、「なまはげの文化」を世界に誇る地域の魅力と位置づけます。
また、男鹿市の1/3に相当するエリアは1973年に男鹿国定公園に指定されており、市では貴重な景観や地質学的価値に配慮しつつ防災や教育、観光に資する持続可能な開発を推進。さらに男鹿市と、その東側に隣接し八郎潟の干拓により誕生した大潟村の全域をカバーする「男鹿半島・大潟ジオパーク」は、2011年に日本ジオパークとして認定されています。
「男鹿市は観光を中心にまちづくりを行っていくことが大事だ、と思っています」
三方を海に囲まれ、天然の良港に恵まれた地の利を活かし、古くから独自の文化を形成・発展し近年、観光産業の振興に力を入れてきた半面、発信力の制約からこれまでその有する魅力を十分には伝えきれていなかった、と菅原広二男鹿市長は述べます。
また観光は、観光業はもとより農業や漁業など広範な産業に影響する総合戦略産業との観点から、同市では当該業界関係者はもちろん一般市民を巻き込んだ「おもてなしの心」の醸成にも注力。そのためにはまず地域住民に幸せを感じてもらうことが重要で、住民自身が訪れた人にそれを還元。さらには、世界中からの旅行者に幸せを感じてもらえるような観光地づくりを目指し続けていきたい、との考えを示します。
多彩な観光スポット、あるいはなまはげを始めとする独自の伝統文化を有する男鹿は、古くから多くの観光客を惹きつけてきましたが、次第にかつての滞在型から通過型へとシフト。市では、その流れを滞在型へ再転換させることが課題となっていました。
男鹿市観光文化スポーツ部文化スポーツ課の中で主に「男鹿半島・大潟ジオパーク」や文化財の保護・活用に携わる竹内弘和主幹は、各景勝地や文化財を学ぶうち、それらについてより「楽しんでもらわないと、もったいない」と実感。ジオパークガイドや史跡のボランティアガイドなどが組織化されてきたとは言え、「それだけではちょっとケアが足りない」との思いがあった、と振り返ります。
そのような折、秋田県のにかほ市でかねてより注目していたWebVR/ARが2022年4月に観光サービスへ導入されたのを知り、早速体験。その優れた表現力に興味を覚え、これまでなかった情報発信や魅力の提供に繋がると着想。具体化に向けた取り組みが動き出しました。
男鹿半島の玄関口に位置し「男鹿のシンボル的な存在」(菅原市長)とも称される寒風山。標高355mと低山ながら、山頂から眼下の日本海を始め遠くに白神山地や鳥海山を望めるほか、秋田市街へと続く夜景など、360度の大パノラマを楽しめるのが特徴。周辺には「鬼の隠れ里」や「滝の頭湧水」などの見所も集積。数年前からは環境保全の狙いもあって山焼き(毎年4月)を復活させるなど、人気のエリアです。
山焼きの成果として噴火口跡の窪みや溶岩じわ、崖などが以前と比べて分かりやすくなっていたものの、来訪者の大部分は山菜採りや景観を堪能するに留まりがちでした。そこでより多くの人に「どこで火山の噴火が起き、どのように溶岩が流れ今の地形が出来たのか、ということを知っていただきたい」(竹内氏)との狙いから、同市の「寒風山ジオサイトVR/AR」導入(2022年度)に繋がっています。
具体的には、寒風山の頂上付近5カ所の体験スポットの看板から二次元バーコードを読み取り、スマホ画面を介して、寒風山の過去の火山活動や火山地形形成の様子をARにより体験可能。また、【寒風山ジオサイト】観光案内所のウェブサイトにアクセスすると、VRでも同様に再現できます。
「山頂付近の噴火口から溶岩が流出し周囲を埋め尽くしていく様子が非常に分かりやすくなりました」。菅原市長はその従来型の説明にはない、直感的に楽しみながら学んでもらえるメリットを受け、寒風山の更なる魅力発信に繋げていきたい考えを述べます。
(記事内容は2024年当時のものです)
「ジオパークや史跡など素材として使ってきた既存の観光資源にARを用いることで、実際に目で見えるものからのみでは得られない、あるいは追体験できない特殊な事象や伝説などの情報を一つの観光コンテンツとして付加させられるというところに、非常に意義があるのではと思っています」
あくまでも文化財を専門とする自身の視点と断りつつ、竹内氏はWebVR/ARの最も大きな活用効果をこう位置づけ。特に、ARがオーバーツーリズムの回避に役立つ一方、VRは遠隔地からでも寒風山の火山活動などの追体験が可能で、地球環境に優しいのみならず、見る者の想像を膨らませ、かつ新たな気づきを与えてくれる、と説きます。
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