神戸エンタープライズ プロモーション ビューロー(神戸市企業誘致推進本部)
学術研究や産業利用向けの膨大な計算処理を超高速で行うスーパーコンピュータ(以下、「スパコン」と略称)。 とくに、独立行政法人理化学研究所が神戸市に設置するスパコン「京(けい)」は、その名称の由来ともなった10ペタフロップス(1秒間に1京回の演算能力)を達成。世界最高水準(世界の高性能なスパコンを定期的にランク付けする「TOP500」で、2011年6月および11月に2期連続して1位)の高性能を誇ります。
今回ご紹介するユーザーは、神戸市です。その中でも、同市において医療産業都市を標榜しつつ、スパコン活用によるシミュレーションの普及促進とそれを通じた産業振興に注力。併せて、これらを背景に立地的優位性を活かした企業や大学、国際会議の誘致を担う、「神戸エンタープライズ プロモーション ビューロー(KEPB:神戸市企業誘致推進本部)」に焦点を当てます。
神戸市では当初、都市計画を担当する部署が数年前に当社の3次元リアルタイムVR「UC-win/Road」を導入。都市計画についてさまざまな関係者に説明するための可視化に当たり、効果を発揮してきました。その際のデータを基に、現在は別の部署(企画調整局)において、将来構想として描かれる神戸のウォーターフロントの姿を可視化しようとの試みが進行中です。
一方、神戸エンタープライズ プロモーション ビューローは当社の提案を契機とし、BIM(Building Information Modeling)を活用しながら限られた時間内で建築プロジェクトの課題に取り組む「Build Live Kobe 2011」(主催:一般社団法人IAI日本)に課題対象として参加。建築分野における先進のシミュレーション活用シーンに触れました。
その後、スーパーコンピューティングの国際会議であるSC(Supercomputing Conference)12(2012年)および13(2013年)への参加に際しては当社などと共同出展。また、香港で開催されたCGに関する国際的なイベント「SIGGRAPH ASIA 2013」では、同市のブースで「SIGGRAPH ASIA 2015」の神戸開催を誘致する活動に当社が協力。それぞれ「京」活用のシミュレーション例として、UC-win/Roadで作成した神戸市の3DVRを使いプレゼンテーションが行われています。
「私たちは、神戸市の企業誘致推進室でスパコン関連の(さまざまなニーズを有する企業などの)誘致を担当しているのと並行し、公益財団法人 計算科学振興財団(FOCUS)でスパコンの産業利用を促進する仕事も行っています」
神戸エンタープライズ プロモーション ビューローは、阪神・淡路大震災からの産業復興をどうするか、新しい産業をどう興していくか、といった課題に取り組むべく設置された、と松崎氏(FOCUS 産業利用促進シニア・アソシエイトを兼務)はまず、振り返ります。
もともと地域産業の復興や企業誘致に当たって「スパコンの利用促進を図る」というターゲットが共通していたこともあり、松崎氏らは2013年4月から前述のように、神戸市とFOCUSの二つの名刺を持って業務に当たるようになっているといいます。
「『京』が動き出して1年以上が経過し、ライフサイエンスやモノづくり、宇宙、ナノサイエンスなどいろいろな分野で成果が出てきています。そうした先端的な研究成果を産業に受け継ぎ、新しい技術に繋げていくため(スパコンを活用した)シミュレーションや解析を提案して、企業の皆さんに独創的な製品をつくり、元気になっていただけるよう下支えしていくことがまさに私たちの仕事です」
都市デザインへの意識の高さを反映し、神戸市では都市計画総局が数年前にいち早くUC-win/Roadを導入。都心部および東部の商業地を中心とするエリアを3DVRで再現。作成したデータは、審議会や地元住民に対する都市計画の説明などに活用されました。
これとは別に、企画調整局では「港都 神戸」グランドデザイン(2011年策定)に基づく再開発に向け、UC-win/Roadを採用。グランドデザインを反映したウォーターフロントの将来を可視化する試みが取り組まれています。
また、神戸エンタープライズ プロモーション ビューローが直接当社と関わるきっかけとなったのは、冒頭で触れた「Build Live Kobe 2011」です。当社からの提案を受け、このBIMツールを駆使して課題の設計を48時間以内にインターネット上で行うコンペを神戸市が後援。同市が所有するポートアイランドの施設用地を課題敷地とし、「デザイン都市・神戸」にふさわしい建物の設計が課題とされました。同ビューロー スパコン・大学グループの神木与治マネージャー(FOCUS産業利用促進アソシエイト)は、これを機に、BIMの有用性を実感。その公共施設における活用可能性が確信されたと語ります。
一方、やはり前述した世界最大のスパコンに関するイベント「SC12」(2012年11月、米国ユタ州)および「SC13」(2013年11月、米国コロラド州)には、同市は当社をはじめ地元誘致企業や大学、研究機関と共同で出展。前者では自治体として初の出展、後者でも自治体として唯一の出展ということもあり、いずれにおいても内外の注目を集めたほか、神戸進出企業への有効なインセンティブともなりました。
とくに、当社のUC-win/Roadで作成した神戸市都心部の3DVRは、スパコンによる高速レンダリングの効果が分かりやすく、来場者の高い関心が窺われました。
さらに、CGやインタラクティブ技術に関するイベント「SIGGRAPH ASIA 2013」(2013年11月、香港)に際し、神戸市は国土交通省観光庁の助成により出展。「SIGGRAPH ASIA 2015」の同市への招致活動と、市が保有するサイエンスコンテンツのPRに努めました。
そこでも当社による、会場候補地を中心としたエリアの3DVRのプレゼンテーションは、市のアピールの効果的な一助になったといいます。(記事内容は2014年当時のものです)
「私たちは神戸への企業誘致を行っていますが、メインは(スパコンベースの)シミュレーション技術の活用により日本の産業界に強くなってもらえるようにすることです」
その意味で、シミュレーションに興味はあるのに、使ったことがないといった企業が利用に向けて一歩踏み出せるような、使いやすく手ごろなシミュレーションソフトの提供を含め、何らかの仕掛けが求められます。全国の企業を年間150社程度、実際に回る神木氏は自身の経験を踏まえ、今後の期待を述べます。また、松崎氏は一連のBIMやVRの活用に触れてきた中で、「社会シミュレーション」などへの展開を視野に、シミュレーション技術の多様な可能性に注目します。
「シミュレーション技術は産業界での利用はもちろん、国や自治体など危機管理や都市の未来に関わる人々が積極的に採り入れ、施策に反映していくことが必要ではと思うのです」
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